ホーリー奪還戦
開城
「ザッザッザ・・・」
セイクレッド軍はホーリーへ進軍している。さきほどの『決死隊』による攻撃で、士気は下がってしまったが、ホーリーを目の前に、また士気は上がっている。
「もうすぐ、ホーリーか・・・。父よ、天より未熟な私を見守っていてください・・・。」
アーミィが馬上で祈る。父というのは、先王のことである。
セイドはそれを聞いていた。セイドが聞いているのだから、当然、チェリーも聞こえた。
「国王、ホーリーは必ず落とします。私が言っても、説得力はありませんが、信じてください。」
「セイド、確かにお前が言っても説得力は無いな。だがな、ホーリーを落とす自信は私にもある。落とさずに国に帰ったら、民衆に殺されるからな。」
アーミィは笑いながら言った。
「お前がチェリーか。いつも、セイドと一緒にいるな。恋人か?」
アーミィはまだ、笑っている。微笑だが。
チェリーは頬を紅潮させている。
「・・・・・・」
セイドは困ってしまった。恋人ではないと言えば、チェリーが傷つくし、恋人だと言えば、冷やかされる。・・・結局、何も言わなかった。
「まあいい。ソルジャー!どこにいる!?」
ソルジャーが呼ばれてやってきた。薙刀を片手に、他の兵士の邪魔をしているように見えた。
「何か用か?」
ソルジャーはぶっきらぼうに聞いた。
「ソルジャー、ホーリーを落とす自身はあるか?」
「さあな。俺がどんなに暴れても、戦況が変化しないほどじゃなければ、負けるだろうが。」
「そうか。まあ、お前が暴れても、ゼロス軍には勝てん。」
「そうか?」
ソルジャーは、当たり前のことを否定されたような顔だ。
ホーリーに着いた。門は固く閉ざされている。
「さて、どう開けるか・・・。」
聖所なので、傷つけられない。それで、どうやって、門を開けるか。
セイクレッド軍が、ホーリーに着いたことは、見張りによって、ホーリー内に広がった。その報は、民衆の耳にも届いていた。
民衆は迷いながらも、武器を取る。
「祖国のために、役に立ちたい。」
という思いだ。
民衆は、ただちに門へ向かい、開いた。セイクレッド軍がなだれ込む。この報は、ゼロス達にも届いた。
「民衆が・・・。全軍、逃げ支度をしろ。民衆の心がセイクレッドについたのだ。心の離れた私が、これ以上ここを統治していても無駄だろう。」
ゼロスは立ち上がって言った。
将兵がこのたった一言によって、あわただしく動き始めた。
祭
「タッタ・・・」
街を傷つけないためにも、騎馬は使えない。なので、歩兵の足音と、悲鳴しか聞こえなかった。
「どけ!お前ら程度で、俺はくたばらん!」
ソルジャーが叫んでいる。薙刀で、敵兵の首を突く。首は取れず、残酷にも、骨と右側の肉が血に染まりながら、残った。
アイリーンや、ギフトは、先陣として突っ込んでいる。ソルジャーより危険だ。
セイクレッド軍は、やっと、街を抜け、王宮に今、入ろうとしていた。
もう、兵はいない。全員逃げたのだ。
「やりあいのねぇ野郎どもだ。」
ソルジャーが薙刀を肩に乗せて言った。
「しかし、こんな簡単に落とせるとはな・・・何か、罠でもあるんじゃないか?」
アーミィが慎重に周りを見ながら言った。
「でも、誰もその罠の被害にはあってない。それに、伏兵にしても、これだけ巨大な城を包囲するのは何十万もの兵がいるだろう。」
セイドがアーミィを見ながら言った。
「ああ、そうだ。セイド、用がある。こっちに来い。」
アーミィは手招きして、セイドを誘った。
「分かった。」
アーミィは、何に使うのか分からない個室に案内した。
「セイド、重要なことだ。よく聞け。」
セイドはゴクリと唾を飲む。
「お前と俺は・・・・・・兄弟なんだ。」
セイドは、頭がすっからかんになるのと、同じように、呆然としていた。
「は・・・・・・?・・・・・・兄弟・・・・・・?」
「ああ、そうだ。お前の父、ソルジャーがその妻、ソローを戦わせたいというんで、承知したんだが・・・こんな話を強制的に聞かされたんでな。」
「・・・・・・」
「ソルジャーの家は貧困していて・・・そこに俺が生まれたわけだ。俺は家計の邪魔者となった。だから、王宮の近くに俺を捨てた。子供好きの先王なら、きっと、面倒くらい見てくれるだろうの思っていたらしい。だが、そのおかげで、俺は王になれた。一国の王に。たかが一人の国民から、国王が生まれるとは、誰も思っていなかっただろうな。・・・・・・こういうことだ。」
「では、私は、国王の弟・・・・・・?」
「そうなるな。・・・それと、もう、兄弟だってことが分ったんだから、俺を兄と呼んでくれ。」
無理を言っている。いきなりのことで、ショックを受けているセイドには、そんなことを理解する余裕もない。
「いきなりだったな。・・・すまない。まあ、いつでもいい。では、セイド、こんなところで油を売っている暇はない。仕事をしろ。」
「・・・・・・分った。」
そうして、セイドとアーミィは、何に使うのか分らない部屋を後にした。
王宮の外は、死体が百にも満たないが、山積みにされていた。後で、城外に持って行き、埋め立てるのだ。焼却では、死体特有の異臭がするので、焼くことはできない。
ソルジャーと、ギフトは、死体の血生臭さに絶えながら、山を運んでいた。
アイリーンは、血の清掃に参加していた。チェリーは宝物と武器の量を記録している。
個室から出て、アーミィは、街の長老を呼んだ。セイドは民衆を束ねることにした。
「あなたが長老ですか?私はセイクレッド国王、アーミィというものです。」
アーミィが、今まで聞いたことのないほど、下から言った。
「あなた様がアーミィ様ですか。わしはホーリーの街の長老です。」
「そうですか。では、いろいろ聞きたいことがあるのですが・・・。」
「なんでしょうか?」
「何故、門を開けたのですか?幸い、ゼロス軍が退いたからよかったものの、もし、ゼロス軍が戦っていれば、我々だけでなく、あなた達にまで被害が及ぶというのに。」
「祖国のために死ねるのなら本望ですよ。我々は、セイクレッドのために働いただけですから。」
「ありがとうございます。ですが、自分の身は守ってください。無理をされては困ります。」
「我々はいい国王を持って幸せじゃなあ。」
「ありがとうございます。では・・・。」
アーミィが去る。王宮へ走っていったのだ。それを、長老は涙の出そうな目を拭いながら、見送っていた。
ソルジャーは鼻をつまみながら、死体を右手や肩で持っている。ギフトには到底出来ないことだ。
アイリーンは、地面にこびりついた血を、水だけで、苦戦しながら取っていた。
チェリーは宝物や武器が、思いのほか多いので、悪戦苦闘しながら計算していた。
セイドは束ねることは得意なので、民衆を難なく束ね、家へ帰してやっていた。暇になったので、チェリーの手伝いでもしようかと、宝物庫へ向かった。
数時間が経った。月は満月で、黄色く煌いていた。ホーリーの街や王宮が、月光を受けて光っている。
死体片付けや、宝物、武器の数量の計算も終わり、血も洗い流すというより、削り取られていた。
アーミィは酒蔵を開けるよう指示した。ホーリー奪還祭の開催のためである。
「おーい!酒だぞー!祭りだー!」
酒蔵を開けた兵士の声だ。この言葉に、兵士たちは騒ぎ始めた。
「何っ?酒蔵が開いたと?よし、ウォッカでも飲むか!」
ウォッカとはロシア原産の酒(現実世界での)で、アルコール度の高いものだ。わかるであろう。ソルジャーである。
「酒蔵が開いた?やった!ニガヨモギがあったから、ベルモットでも飲もう!」
ニガヨモギというのは、ベルモット(こちらも現実世界の)の原材料の内の一つである。誰かはわかるだろうが、アイリーンである。
セイドとチェリーも聞いたが、余り喜べない。二人共、アルコールは完全に駄目なのだ。
街の中央は、既に、どんちゃん騒ぎ。特に、ソルジャーが騒いでいたことは言うまでもない。
セイドとチェリーは、騒ぎに参加できず、明かりの無い王宮の中にいた。
「チェリー、話したいことがあるって、言っていたな。何を話したいんだ?」
暗闇の中で、セイドの声がチェリーにすぐ届いた。
「・・・・・・これからも・・・・・・・・・くれますか?」
セイドからは、チェリーは見えないが、チェリーは頬を紅潮させている。
「すまない。聞こえなかった。これからも、なんだ?」
「・・・・・・・・・いてくれますか?」
「いる?一緒にという意味か?」
設定資料集にも書いたが、この二人は恋人ではない。
「・・・・・・はい。」
「ああ、もちろん。戦場ですら、一緒にいたんだから、言うまでもないだろうに。」
「!・・・ありがとうございます!」
チェリーの喜びの声が、王宮内を響き渡る。
「チェリーは弱い。私か、アイリーンがついていないと、どこで倒れるか分らないからな。」
王宮内にも、街のどんちゃん騒ぎが聞こえる。セイドとチェリーは、街の中央に向かって、走っていった。
兵士達の騒ぎが見えてきた。ソルジャーが一番酔っているようで、暴れっぷりが戦場よりも目立っていた。アイリーンは座り込んでいて、まるで、任務を果たすためのように、酒を飲み干していた。
「相変わらずだな。・・・しかし、この戦を口実に、イモータルが戦を仕掛けてきたら、どうするのか。真正面から戦っても無理だろう。今までのは、ただの雑兵だったのだし。」
セイドが騒ぎを見ながら言った。雑兵というのは、ゼロスのような将軍を示しての意味ではない。一般兵士が雑魚だったということだ。
「そうやって、セイドはいつも考え込む。もう少し、気楽に行けませんか?」
チェリーが、少し前のことを思い出しながら言った。
「わかっている。だが、戦というのは死を生むものだ。緊張感も無くに、戦なんてやれば、死んでしまう。私が生きているのも、チェリーが生きているのも、緊張していたおかげだ。」
そう言われては、言い返せない。言い返す言葉も無い。
場所が変わるが、ホーリーの民家の前。
「ギフト、見てみなよ。月が私達の勝利を祝福している。」
アイリーンである。隣にいるのはギフト。アイリーンと手合わせしに来たのだが、話があると言われて、隣に座っているのだ。
「ああ、そうだな。・・・アイリーン、酔いが醒めたら、俺と手合わせしてくれ。」
「手合わせ?今でもいいよ。」
「酔っている相手と手合わせしても意味ないと思うが・・・。」
「づべこべ言わない!さあ、やるよ!」
アイリーンに引っ張られ、ギフトは無理やり立たされた。
「さ、来い。」
アイリーンは酔っているので、どう動くかわからない。確かに、訓練の一つにはなりそうだ。
「来ないのか?・・・なら、こっちから行くぞ。」
アイリーンが双剣をカチカチ鳴らしながら、迫ってくる。恐ろしい、とギフトは思った。声に出せば、瞬殺されかねないので、言わなかった。
右手に握られている剣が、ギフト目がけて突いてきた。ギフトは後ろへ飛んで避けた。・・・訓練なのに、真剣を使うのは恐ろしい。もっとも、ギフトも真剣を使っているが。
ギフトは何かに当たった。剣ではない。人だ。振り向いてみると、国王が立っていた。
「ギフト、アイリーン、真剣を使って手合わせなどやるな。」
アーミィが威厳を体中に発しながら、言った。
「はあ・・・、すみません。」
ギフトは正直にあやまる。アイリーンは、カランと剣を落として
「国王が何故ここに?」
と、酔いは醒めているようだった。
「軍の勝利を、国王は祝ってはいけないのか?」
「いえ、そういうわけでは・・・。」
「国王、すみませんでした。次からは、手合わせに真剣を使いません。」
ギフトが口を挟む。この場から、早く立ち去りたいのだ。
「それじゃ、失礼しました。」
と頭を下げて、二人は立ち去った。
ホーリーは、満月の光で満ちていた。セイクレッドの勝利を祝福するかのように、イモータルの敗北を慰めるかのように・・・。