桜城の戦い

本陣奇襲

「バキッバキッ・・・」
桜城を壊しているのである。もちろん、セイド軍がこんなことをするわけがない。ブライト軍である。
「まだあきらめないか・・・。もっと壊せ!」
この、ヴィクトリィの命令で、兵士は持っているハンマーを振りかざす。
鈍い音がして、桜城の城壁は崩れてた。ほんの一部ではあるが、城内の兵としては、かなりの不安の種となる。
「・・・しぶといな。今回は引き上げだ!」
ハンマー兵が振り向いて走る。ハンマーが重いのか、その足取りは遅い。それに比べて、ヴィクトリィは馬に乗っているので速い。
「スプレンダーは救出できただろうか?心配だな・・・。」
スプレンダーは、例の二人の救出が目的。兵は少ないが、救出するだけなので、そんなに兵はいらない。
・・・スプレンダーは「二人」を救出できた。
「君ら、名は?」
スプレンダーが聞いた。
「俺はジョン。」
小さい赤い鎧の方が言った。
「わしはロイアルだ。」
大きい赤い鎧の方が言った。
この二人、チェリーの父、ジョンと、アイリーンの父、ロイアルである。
「君達、何故、桜城を攻撃していたんだ?」
「俺の城を取り戻すためだ。」
「わしの砦を取り戻すため。」
「桜城とアイリーン砦か。この城は君のものだったのか?」
「ああ、そうだ。イモータルの征南将軍、チェリー・ジョンだ。」
「チェリー・・・?・・・!なるほど、君はチェリーの父親か。」
「チェリー・・・グレイスがいるのか!?」
「待て待て。そう急ぐな。チェリーに会いたいなら本陣に行くことだが、まだ素性も知れない君らを本陣に入れることなどできない。」
「身分証明書でも見せろと?俺は皇帝殺害未遂で、殺されそうだったんだぞ。身分証明書なんて持ってるわけないだろう。」
「だが、身分を示すものがなければ・・・」
「娘に会わせてくれ。会えばわかる。」
「・・・仕方ない。その代わり、縄に縛られてもらう。」
近くの兵が縄を取りに走った。
「いいだろう。」
二人同時に言った。
さっきの兵が縄を持ってきて、ジョンとロイアルを縄で縛る。二人共別々の縄でだ。
「これでいいな?早く娘に会わせろ!」
ロイアルが言った。
「そう急ぐな。・・・本陣に戻る!撤退開始!」
命令に従い、兵は退き始める。その波にのまれるが如く、ジョンとロイアルは流された。
ジョンとロイアルの漂流先は、ブライト本陣だった。
「ここはわがブライト軍の本陣だ。チェリーは向こうのセイクレッド本陣にいる。だが、アイリーン・アーネストという人はいない。・・・私が連れて行こう。」
ジョンは無言で肯いた。ロイアルは不服そうだ。
スプレンダーと三人の兵の槍につつかれながらも、セイクレッド本陣に辿り着いた。
「ここだ。」
「娘はあの天幕にいるのか?」
と、ジョンが指を指す。
「多分、そうだろう。」
槍につつかれながら、天幕の中へ入ろうとした、その時・・・
「奇襲だー!奇襲だ!」
セイクレッド兵が叫んだ。その叫びも少ししてから止まった。死んだのだろう。
「奇襲?まさか!」
スプレンダーの予想通り、フレイムの本軍が来ていたのである。あの時、フレイムは軍を三分していたのだ。
「俺はどうすればいい?ここに放置しても、裏切るかも知れないんだぞ?」
「・・・仕方ない。縄を解こう。共に戦ってくれ。今は敵を退かすことが目的だ。」
と、ジョンの縄は解かれた。
「ありがと。じゃ、武器は敵から調達してくるか。」
と言って、ジョンは走っていった。
どうやら、戦場に落ちている武器で戦うらしい。
「我らも行く。」
スプレンダーと三人の兵は、敵に向かって走った。
セイドはどうしているか。見てみるか。
「・・・本陣が奇襲されたか・・・。」
別に驚くこともなく、セイドは独り言のように呟いた。
「チェリーを連れてきていてよかった。」
と、セイドが振り向いた先には、チェリーが立っていた。
「アウトロー、本陣が奇襲された。兵を少しばかり分けてくれ。」
ちょっと奥を見ると、アウトローが重そうな荷物を運んでいる。
「いいぜ。こいつらがいれば充分だから、他は全部持ってっても構わない。」
「ありがとう。よし、伝令、二千の兵にセイクレッド本陣を救出するように言え。本陣に来るようにもな。」
そう言うと、伝令は素早く走り出し、セイドとチェリーも、伝令とは逆の向きにではあるが、走り出した。
アウトローがいる時点で分かると思うが、ここはアイリーン砦である。
本陣奇襲部隊には、フレイムが途中加入していた。そのおかげで、セイクレッド・ブライト軍は苦戦中。兵はぞくぞくと集まっているのだが、やはり、敵は精鋭なのか、かなり強い。
「まずいな・・・。一旦退くってのもありかもな・・・。なあ、将軍様!」
将軍様とは、スプレンダーのことである。一般兵による呼び名を、そのまま使ったのだ。
「退けない。この戦いは絶対に退けない!ジョン、ロイアル、もっと頑張れ!」
「頑張れ・・・か・・・。おっと、過去を思い出す時間はないか。」
とその時、ジョンの持っていた槍が折れた。さっき拾ったものだから、もろいのか。
「まずいな。」
全くもってその通り。ジョンはフレイムの槍を衝き付けられた。フレイムの槍はエドワードとの一騎打ちで棒と化したが、先程新しい槍に変えたのである。
「やれやれ、こりゃ、本当にまずいな。」
「お前・・・ジョンか。」
「ああ、そうだ。皇帝殺害未遂で殺されそうになったジョンだ。」
「そのジョンが、何故ここにいる?ブライトかセイクレッドに雇われたのか?」
「いや、桜城を取り返そうとしていたところで捕まった。それだけだ。」
「今までよく生きていたものだ。だが、その奇跡の生涯も、今ここで果てるのだ。」
「お好きなように・・・。」
ジョンは受け入れた。フレイムは衝き付けていた槍を押した。
ジョンの首は槍に衝かれたことになり、ジョンは死んだ。
「ジョン!」
ロイアルが呼んだが、ジョンは返事をしない。
「てめえ・・・、殺す!」
恐ろしい形相で、ロイアルが叫んだ。
「お前は・・・ロイアルか。ジョンをかばって罪を共にかぶった・・・。」
フレイムは槍を構える。ロイアルは先程から構えている。
とそこへ、スプレンダーがやって来た。だが、フレイムの後方なので、フレイムには分からない。ロイアルはフレイムしか見えていないようなので、やはり、スプレンダーは見えない。
「覚悟!」
スプレンダーの槍が、フレイムの背を刺す。たいして刺さっていないので、血が出る程度だった。
「ぐっ・・・。」
フレイムは不利になった。一対二では勝てない。
「・・・撤退しろ!敵に構うな!」
敵の奇襲部隊は撤退した。多くの死体を残し、つくって。
「ジョン・・・。」
ロイアルはジョンの死体を眺めている。
「ロイアル・・・。セイクレッド兵、死体の片付けだ。」
兵は死体の片付けを始めた。その死体は近くに埋めるのだ。
スプレンダーも死体片付けをしている。
「セイド殿?」
セイドが二千の兵を連れてやって来た。
「スプレンダー殿、敵の奇襲部隊は?」
「それなら、我らでなんとか退かせました。・・・ですが・・・」
「どうした?何かあった?」
「それが・・・、チェリーには離れていただきたいのですが・・・」
「わかった。チェリー、ちょっと離れてくれ。頼む。」
「はい。」
チェリーはセイドから離れる。
「で、どうしたんだ?」
「はい・・・・・・チェリーの父親、ジョンが死にました。」
「何!?おい、何故だ?何故だ!?」
セイドはスプレンダーを揺する。
「それは・・・本当にチェリーの父か分かりません。本人がそう言っていたんです。」
「・・・チェリー・・・。」
「ジョンは死にましたが、アイリーン・アーネストという人の父、ロイアルなら生きていますが。」
セイドには聞こえていない。いや、聞きたくないのだろう。もっと、チェリーが悲しむようなことを言うと思って。

「ザー・・・」
雨が降っている。それはまるで、娘に会えなかったジョンの涙のよう。
セイクレッド本陣は、死体の片付けは終わっていないのだが、ほとんど終わったので、セイドとチェリーは桜城に来ていた。
チェリーが桜城を案内してくれている。セイドは申し訳ない、と思っていた。慰めの言葉すら見つからないなんて。
・・・アウトローはアイリーン砦、スプレンダー、ロイアルはセイクレッド本陣、ブライトネス、ヴィクトリィはブライト本陣にいる。エドワードのセイクレッド騎士団は周囲の敵を探している。
・・・チェリーも、案内したり話したりすることで、なんとか平静を装えたのだが、遂に、悲しみは張り裂けた。ここは桜城太守の部屋。チェリーからすれば、ジョンの部屋である。
「チェリー・・・。大丈夫か?」
大丈夫なわけない。父の死体をこの目で見たというのに・・・。
「・・・・・・・・・」
セイドは何も言わなかった。言えなかったのではない。言わなくていいのだ。無駄な慰めなんて、必要ない。慰めただけで、ケロリとするほど簡単な心ではない。
突然、(セイドはだいたいの予想が出来ていたのかもしれない)チェリーがセイドの胸に向かってきた。
「チェリー・・・。」
「セイド・・・。」
チェリーはセイドの胸の中で泣いている。セイドは腕をチェリーの背に回した。
それから数十分。二人共ほとんど動かなかった。
やがて、チェリーが顔を上げ
「・・・ごめんなさい。こんなに服を濡らして・・・。」
とあやまった。別の意味も含まれているのだろう。
そう言われて、セイドは自分の服の胸の部分を見る。なるほど、どうりで胸が濡れた感じなわけだ。だが、冷たくはなかった。むしろ、暖かいものだった。
「このくらい、乾かせばいい。さ、ここで一日だけ休憩をとる。明後日(あさって)からは軍を進めることになるから、承知しておけ。」
こういう場合は、何か別のことをさせて気を紛らわす方がいいのだ。これはあくまで、私の考えだが。
「はい、承知しました。」
チェリーはビシッと敬礼のポーズをとって見せた。それを見て、セイドは笑った。つられて、チェリーも笑った。
・・・・・・雨はまだ降っている。ジョンは自分の一人娘に恋人(のような人)がいることに怒っているのだろうか。雷が一発落ちて、辺りをほんの一瞬、照らした。