聖女の血涙
サンタ・ルチア港の戦い
「タッタッタ・・・」
ブライト軍はイモータル首都、エクメーネ目指して進軍中。セイド軍は周りを固めるため、伝統ある港町、サンタ・ルチア港をとるように命令された(命令というと上下関係が見えてしまうが、ブライト軍の方が一応、由緒ある国家なのである)。
サンタ・ルチア港とは、現実にある港町の名前である。許可なく使っているが、公表されているのだし、まあ、いいだろう。この港町は、確かギリシャ辺りにある。いや、イタリアだったか?・・・サンタ・ルチアはこの港町の聖女とされている。
「こんな地方に飛ばされるなんてな・・・。」
セイドはため息をついた。
「まあ、そう言うなよ。港町なんだろ?なら、うまい魚がどっさり・・・」
本当にこいつが戦をするのか?と、セイドは疑った。
そこへエドワードがやって来た。
「クルーセイド殿、サンタ・ルチア港の民衆は強い団結力を持っていることでも知られています。そこで戦をするとなれば、必ず民衆は暴動を起こすでしょう。それをどう対処しますか?」
「まだ考えてない。フレイム軍がこっちに来るかどうかを悩んでいたからな。」
「ま、そう戦のことばっかり考えるなって。サンタ・ルチア港といえば、街の明かりと海が美しいことで有名じゃねえか。少しは景色を眺めてみろよ。ここで伏兵ができるな、なんてこと考えねぇでさ。」
アウトローはセイド達の前に立ちはだかり、手を回して見せた。
「確かに、一理ある。だが、戦時中にそんなことは考えられない。」
「エドワード将軍、そんな固いこと言わずに。せめて、この美しい景色を守るぐらいの努力はしましょうよ。」
「まあ、クルーセイド殿が言うなら・・・そうかもしれないな・・・。」
やわな意思だ。
サンタ・ルチア港に着々と近づいている。
「伝令!港町の前に柵が敷かれています!」
「柵?・・・恐らく、民衆だろう。攻略が面倒だな。」
と、セイドは言った。
「敵の援軍が来たらそこまでだ。急がねえとまずいぜ。」
エドワードが先頭で布陣しているので、ここにはいない。
「だが、民衆を殺すわけにはいかないだろう?」
「じゃ、どうすんだよ?」
「それを考えているんだろう?」
「ま・・・、そうだけどよ。」
「あの、私に兵を貸してくれないでしょうか?私が民衆を引き付けている間に、セイド達が横から港町をとれば・・・。」
「そうだな。賛成だ。チェリー、用兵は今まで一緒にいたからわかるだろう?アウトローも付けようか?」
「おい、俺は民衆相手なんかやらねえぞ。」
アウトローの反論も空しく、アウトローが付くことになった。エドワードも承知したのだ。
「じゃ、アウトロー、任せた。エドワード将軍、行きましょう。」
セイド部隊とエドワードのセイクレッド騎士団はサンタ・ルチア港の側面向けて進軍した。
「しゃあねえ、チェリー、行くぞ。」
「はい。」
アウトローはやる気がなくなっていた。
アウトローの一団と預けられた部隊は、サンタ・ルチア港の正面に向かって進軍しだした。
「奴ら、来やがった・・・。この港町は俺達の物だ!よそ者如きに奪わせやしない!行けーい!」
民衆は馬鹿であった。せっかく作った柵を跳び越し、柵の前へ出てきたからである。
「げっ、柵の前に出てきやがった。退け!あいつら馬鹿だ!ここで戦ったら全滅させちまう!退け!」
敵を弱く見すぎではないか・・・?
「ガッハッハッ!俺達に怯えやがって!アホ共が!」
いや、アホはお前だろう。・・・このツッコミが聞こえないといいのだが。
「ちぇ、面倒くせえ。あいつらなんて、簡単にひねり潰せるのによ。」
「まあまあ。民衆を殺さないのが第一ですから、我慢してください。」
と、チェリーがなだめる。アウトローはムスッとしたままだ。
「よし、サンタ・ルチア港に着いたな。」
と、セイドが言った。
「騎士団は周囲の敵を探します。」
と言って、エドワードは騎士団を連れて、走っていった。
「さて、街を制圧しないと。」
セイド部隊は街に入った。街の中には女子供しかいない。街中から泣き声が聞こえてくる。これが真っ暗だったら、ホラー映画のワンシーンにもなりかねない。
「何?奴らが街の中に入ってるだと!?ならそいつらをぶっ殺せ!」
民兵が街の中に戻る。いや、進むと言った方がいいか。
「どこだ!よそ者!出て来い!やっぱりよそ者は臆病なのか!?返事してみろ、コラァ!」
「あんだとォ!もっかい言ってみろ!カス共ォ!」
とどこからか声がした。
「てめえ・・・ぶっころーす!!」
「殺されるのはそっちだ!タコ!」
何故、タコなのかは分からない。
「だったらさっさと出て来い!」
「いいぜ!出てってやるァ!」
出てきたのはアウトローとその一団。貸された部隊はチェリーに任せているのだ。
「お?てめえはさっきの・・・」
「へっ、わざわざ柵の前に出てきた馬鹿じゃねえか。」
「んだと!?んにゃろ・・・!」
「ま、言い合うよりも、こいつでやった方がいいんじゃねえのか?」
と、アウトローが持っていた剣を構える。
「いいだろう。いくぜ!」
勝負は一瞬でついた。だいたい、今まで戦ってきた人間が、その辺にいくらでもいる民に負けるわけがない。
「ぐはあァァァ!」
「へっ。てめえ如きが偉そうに威張ってんじゃねえよ。・・・おい、お前ら!」
呼ばれて、民兵がビクッとする。そして、叱られた子供のようにシュンとしてしまった。
「お前ら、死んだこいつの下にいることもねえ。どうだ?俺達に味方してくれねえか?」
ビクビクしている民兵の中から、見るからに勇ましい男が出てきた。
「俺達には俺達の誇りがある。お前らみたいなよそ者の味方に誰がなるか!」
「お、勇ましいねえ。なら、戦おうぜ。」
「いいだろう。サンタ・ルチアの港町町民の誇りを示せ!」
激戦が起こった。両者共、譲らない。
その内に火が放たれ、港町は前とは違う美しさを持った。港町は炎に包まれ、火は燃え上がる。焼ける苦しみを声に出し、叫ぶ。こんな惨事を誰が予想したのであろうか。予想もしたくないことだが。
「な・・・!?街が・・・焼けている・・・?とにかく、街の中を調査しろ!敵でも味方でも助け出せ!」
セイド軍の兵士達は炎に向かって突撃する。敵兵に突撃とは、わけが違う。
しばらく、炎の中を調査したが、死体しか見付からなかった。焼死だけでなく、斬死状態のものもあった。
アウトローの一団は逃げていた。だが、民兵は全滅した。エドワードとチェリーもセイドのもとへ駆けつけ、辺りは騒然としていた。
炎は天空を貫き、海は焼けている。民衆が築き上げてきた街はほぼ全焼。苦労も全て、この炎に呑まれてしまったのだ。
船奇襲
「タッタッタッ・・・」
サンタ・ルチア港は焼失。セイド軍は街の火を消していた。
「伝令!敵軍が迫っています!」
廃墟の中を伝令が走ってくる。
「何!?・・・敵の大将は?」
「はっ、東の軍はフレイム、西の軍はマッチが将として指揮しています。」
「そうか・・・。」
街の火も消えてきた。
「火は消えたな。エドワード将軍。」
手招きでエドワードを呼ぶ。
「クルーセイド殿、どうされましたか?」
「ああ、敵軍が来ているそうだ。エドワード将軍には東のフレイム軍を止めていただきたい。」
「わかりました。騎士団だけでもいいんですか?兵が足らない場合は・・・。」
「心配ない。セイクレッド騎士団の力を見せるときですから。」
「では、行ってきます。」
「ああ。私は西のマッチ軍を叩く。」
軍は休む暇などない。軍を急いで再編成し、東、西へ進軍んしなければならないのだから。
編成は終わり、軍は二つに分かれ、東、西へ進軍した。
「フレイムか・・・。また一騎討ちをやろうか。」
と、エドワードは呟いた。一騎討ちの時を思い出す。
「将軍、敵です!目の前に敵が!」
エドワードは眠っているとき、急に叩き起こされた如く、ハッと顔を上げた。
「フレイム・・・。正面からかかれ!奴に小細工は効かない!」
兵達は勇ましく、フレイム軍に向かって走り出す。
エドワードは敵兵を刺してどかし
「フレイム!一騎討ちをやろうではないか!」
「一騎討ちか・・・。悪いが今はできない。・・・退け!」
「な・・・?逃げる気か!待て!全隊、フレイム軍を逃がすな!追え!」
兵はフレイム軍を追撃する。エドワードはフレイムと一騎討ちで、前の決着をつけたいのだ。
騎士団はフレイム軍に誘われていく。この先に伏兵がいるとも知らずに・・・。
セイド軍はマッチ軍を撤退させることが任務。サンタ・ルチア港では廃墟の焼け焦げた家などが邪魔なので、港町から出てきている。
「さて、ここで奴らを迎撃するか。」
マッチ軍はどうなっているか。
「何!?サンタ・ルチア港が廃墟だと!?」
マッチは伝令の報告を受け、 憤然として言った。
「は・・・はい・・・。」
「・・・では、船はどうなった?焼失していないかどうかだ。」
「は・・・そこまでは・・・セイクレッド軍がいるので見えませんでした・・・。」
伝令はどんどん小さくなっていく。
「そうか。地味将軍、サンタ・ルチア港まで行って下さい。船が生きていたら、その船で敵本陣を奇襲するのです。船が焼けていたら、セイクレッド軍を後方から攻撃してください。」
「わかった。でも、敵軍はどうする?構わず通過するのか?」
「ああ、そうだ。」
「じゃ、行ってきます。」
ジミーは自分の数少ない部隊を集める。
「地味将軍、待て。私の兵を貸す。そんな寡兵では勝てんぞ。」
「はぁ・・・。ありがとうございます。」
ジミーは大きな部隊を動かすのは得意ではない。いや、指揮したことがない。
「じゃ、行くぞー。サンタ・ルチア港の船が生きているかどうかを調べるから。」
少数の隊にはこれでいいのだが、大部隊となると、一回言うだけでは済まないときがある。このときは、静かだったので、後方まで聞こえたようだった。
ジミー部隊はサンタ・ルチア港へ進軍する。
「残りの兵は全員、セイクレッド軍を止める!倒さなくてもいい。止めればいいのだ!」
マッチ軍はセイド軍を迎撃する体勢を取り、進軍開始。
セイド軍とマッチ軍は戦いが長引き、乱戦となった。
騎士団はフレイム軍の伏兵にあい、混乱中。
その混戦状態の中、ジミー部隊はセイクレッド本陣を奇襲するのだ。ジミーの奇襲がイモータル軍勝利の鍵となる。全く、雑将軍には荷が重すぎる。
「ふう、戦ってないのに疲れたなあ・・・。」
と、ジミーは呟いた。兵達のも聞こえている。
「サンタ・ルチア港なのか?ここが・・・?」
ジミー、そして、兵士達は愕然とした。ここが、あのイモータル南の都と謳われたサンタ・ルチアの街なのか?
「ひどい荒れようだ・・・。船を探そう。焼かれてないのがあるかもしれない。」
かも、というのは、ジミーはいつもは言わないのだが、この廃墟を見たら、誰でも不安を持つだろう。
「地味将軍、船がありました。」
向こうの、焼けた黒が少ないところにいる兵が言った。
「そうか。よくやったな。どれ。」
ジミーは船をまじまじと眺めた。
「ほう、小さいけど、5隻もあるな。これだけあれば、部隊を乗せられる。」
小さい、といったが、けっこう大きいのだ。他の船と比べて、小さいと言ったのである。
ジミーは兵士達を船へ乗せ、最後に自分も乗った。
「さ、敵本陣へ行くぞー!なるだけ急げ!」
船が水の上を走り出す。段々と速くなり、速度が出てきた頃には、水しぶきも上げるほど。
「この調子だ。このままいけば、敵に見つからないぞ。」
船はセイクレッド本陣に着き、船の中に置いてあった架け橋を地面に付け、そこからワーッと降りていく。セイクレッド兵もさすがに気付いており、応戦した。
戦いはジミーの圧勝で終わり、本陣は落ちた。だが、このことが敵に知られなければ敵の士気を下げることができない。
「よーし、本陣は俺達の手に落ちた。マッチ参謀を助けるため、戻るぞ!その後、フレイム将軍も助けるだろう。」
ジミーは大部隊を誘導し、サンタ・ルチア港を抜け、マッチ軍の救援として戦った。が、力ではセイド軍に劣るため、あっけなく負けた。その後、セイド軍は騎士団の援軍として急ぎ、フレイム軍を退かした。
最後は力で勝ったのである。だが、この戦いには、何の意味もなかった。ただ、人が死んだだけだ、と、セイドは思った。