炎の火焔
誘い
「タタタタ・・・」
セイド軍は、サンタ・ルチア港での戦いで精神、体に大きな打撃を受けた。
「・・・・・・」
誰も話そうとしない。いつもはアウトロー辺りから話の渦が広がっていくのだが、今回ばかりはアウトローも一言も喋らない。
「伝令!・・・あの、この先に敵軍がいるんですが・・・」
伝令は当惑してしまった。いつもなら話し声が少しくらい、するはずなのだが。
「・・・そうか・・・。わかった・・・。」
セイドには元気など一欠けらもない。軍の士気は下がる一方だ。
やがて、フレイム軍が近い、との報が来た。
「戦・・・か・・・。」
セイドが呟く。疲れた表情、力ない声・・・。それはこの軍全員の病となっている。
フレイム軍との戦が始まる。士気が著しく低いので、勝敗は明らか。
「負け気味だな・・・。」
セイドが呟く。
フレイムの兵が挑発してきた。セイドは怒り狂い、挑発と知りつつも、乗ってやったのだ。挑発に乗り、勝って、士気を高めるつもりなのだ。
「追え!奴らを追撃し、潰すのだ!」
セイドの部隊が追撃する。フレイム隊は森の中へ逃げていく。
逃すものか!ここで逃せば、この軍はもはや「軍」ではなくなるのだ!
森の中心まで来たようだ。小さな砦を見付けた。
フレイム隊が砦の中へ逃げる。セイド部隊も追撃する。
フレイム隊が砦を通過して、門が閉まる。
「な・・・!?門を開けろ!」
だが、門は内側からは開けられない。外側に鍵(もちろん、木だが)を付け替えたのだ。
こりゃやばい。まさに孤立無援だ。
「おい、門は開けられないのか?くっ・・・。」
セイドは悩んだ。ここにいるのは、セイド、チェリー、五百程度の兵。
砦の上から、火が見える。森に火を放ったのだろう。
「火計か。どうするか・・・。」
ここまで追い込まれては、頭が回らない。冷静でいられるだけであった。
「セイド、どうすれば・・・。」
「流れに任せるってわけにもいかないからな。だが、どうしたものか・・・。」
何故こんなにも冷静なのか、セイドは自分を疑った。
炎が砦の壁を焼き、門も焼け、崩れていく。
「今だ!門が開いた今、炎の中を走り抜け!」
セイドが先頭に立ち、炎の中へ走る。チェリーを背負って、なので、服が少し焼けてしまったが。・・・続いて、兵士達が走り抜ける。
「やれやれ、服は焼けたが、なんとか生きているな。さて、これからが勝負だ!この炎の中を突っ走り、味方を助ける!行くぞ!」
オーッ!と、兵士達は叫び、火の森を駆け抜ける。
途中、炎に触れて、痛みを感じない、というほど焼けた兵が何人かいたが、なんとか森を抜けられた。
この炎、サンタ・ルチア港の炎とは全く違う。炎の巨大さが全然違うのである。
だが、こんな五百程度の兵が来たからといって、戦局が変わるわけが無かった。
救援を!
「ワーッ!!!」
セイド軍とフレイム軍が激戦を繰り広げている。
兵力からすれば、フレイム軍が有利なのだが、フレイムの火計によるセイド軍の被害が極端に少ないことから、士気低下。
セイド軍は、セイド達が帰ってきたことで、士気上昇。兵力は負けているが、奮戦してそれを補っているのだ。
「後少し、後少しだ!援軍は必ず来る!」
セイドが励ます。もっとも、援軍の期待などできない。ブライト軍はエクメーネに向かって進軍しているし、アーミィのセイクレッド軍はゼロス軍と未だに冷戦状態。どこも兵の余裕などないのだ。だが、セイドはあきらめなかった。どうせ死ぬなら、最後の最後まで生き抜いて、援軍をこの目で見てやる、と強い意思を持ったからだ。
・・・まだ戦いが続いている。援軍の姿も見えない。敵味方の兵は次々と斬られていく。セイドは奮戦するが、一人ではどうしようもない。
「まだ・・・来ないのか!絶対に生き抜け!この程度の輩に負けるな!」
もう、味方の兵は数えられる程しかいない。
「ん・・・?何だ?敵が退いていくぞ。」
フレイム軍は本陣に撤退し始めたのだ。セイド軍にはどこが本陣なのか分からないが、とにかく敵は退いているのだ。
「やった・・・。皆、よくやった・・・。・・・一時休憩だ・・・」
セイドは力なく、その場に倒れた。死体はないが、セイドにはにおいを嗅ぐ余裕もない。・・・っと、チェリーは既に疲労で倒れている。もちろん、二人とも死んではいない。
残った兵はごくごく少数。ほんの、二、三十人しかいない。
何故敵が撤退したのか。そんなこと、セイドにはどうでもよかった。今、生きているのだから。
「おーい、セイド。生きてるかー?」
「ん・・・」
ここは敵本陣のようだ。セイドには見覚えがない。
起きてみると、どうやらセイドは寝ていたようだ(起きたのだから、当たり前だ)。
「・・・ここは・・・?」
セイドは頭をかきながら、寝ぼけた様子で言った。
「ここか?ここはフレイムの本陣だ。俺が落としたんだぜ。すげえだろ?」
「ここが敵本陣・・・?アウトローが落としたのか!」
「もちろん、セイドが敵の挑発に乗って追撃してる間に、俺らはわざわざ戦場を迂回して、敵本陣を見事、奇襲したってわけだ。」
「そうか・・・。ありがとう。だが、お前の兵だけで落とせたのか?」
「ああ、ずいぶん時間がかかっちまったけどな。ま、間に合ってよかったぜ。」
「間に合って・・・はいないぞ。味方の損害がはかり知れない。・・・そうだ。エドワードはどうした?」
「エドワード?あれ、お前が命令したんじゃないのか?ゼロス軍の後方から攻撃しろって。」
「そうだったな。余りの激戦に、忘れてしまった。・・・物資は大丈夫なのか?」
「ああ、奴ら、さっさと逃げたからな。悠々と物資を数えられたぜ。」
「チェリーは?」
「まだ休んでる。連戦に連戦で疲れてんだろ。じゃ、ゆっくり休んどけよ。俺はもう、お前の世話はしたくないからな。世話ってのは、上司が部下にするもんだろ?」
「そうだな・・・。」
アウトローが天幕から出て行った。そして、セイドはまた、深い眠りについた。寝息もない、深い眠りへと・・・。いや、別に死んだわけではない。