エクメーネ城の戦い(城外戦編)
堀水計
「タッタッタッ・・・」
伝令が走り回る。疲れて、倒れる者もいるほどだ。
「ふむ、エクメーネ城は高い城壁に覆われているか。皆、どうやってこの壁を取り除くか。」
ブライトネスが言った。
ヴィクトリィが手を挙げた。
「以前、アーミィ殿の策を使ってみましょう。」
「アーミィ殿の策?水計か。」
「はい。エクメーネは堀に囲まれていますから、あそこまで掘らなくてもいいのです。堀に繋がっている川をせき止め、充分にたまった後、せき止めている板を壊し、激流で城壁を壊します。」
「ふむ、スプレンダーはどう思うか。」
「私は国王や団長に従います。」
「では、ヴィクトリィの水計で異議はないな?」
沈黙。その沈黙をブライトネスが破った。
「よし、水計に決定だ。指揮はヴィクトリィに任せる。スプレンダー、ジョーンズはヴィクトリィの下へ。他は各自、自分の仕事に励め。では、会議を終了とする。」
ガタッとイスを動く音がいくつもして、天幕にはブライトネス以外、誰もいなくなった。
さっそく、水計の準備が始められた。
ほとんどが騎士団の兵なので、順調に進んだ。
「順調だな。もうすぐ終わるか・・・。」
作業の様子を見ているヴィクトリィが言った。
スプレンダーも仕事をしている。やはり、城を壊したりすることは、余り好きではないようだ。
セイクレッド軍は困っていた。どうやってエクメーネを攻略するか。
「・・・ブライト軍は水計でエクメーネの城壁を壊すらしい。さて、セイクレッドはそれをただ、見ていることしかできないことはない。何か案はあるか?ブライトを援護する策でもいい。」
作戦会議である。アーミィが聞くが、誰も手を挙げることもしなければ、なにかを言うでもない。
だが、その沈黙をセイドは破った。
「あの城は堀に高い城壁があります。ブライトの水計は中々のものですから、その後、イモータルが動くかどうかが問題です。動いたときに備えて、エクメーネ城を完全包囲するべきでしょう。そうすれば、敵の士気も下がり、投降者も出てくるはずです。」
立ったが、力説せず、それでいて力強く言った。声が大きけりゃ力強い声というわけではないのだ。
「そうだな。では、ブライトと共に包囲するか。だが、兵の少ないイモータルがそう簡単に動くか?敵は撤退を第一に考えているはずだ。」
アーミィの反論は、セイドをたじろかせた。
「ですが、包囲している限り、兵糧攻めも可能ですし、隊を厚くすれば、突破はいくらゼロスでも、困難です。」
「そうか。では、包囲するか。奇襲の備えもおこたるな。・・・これで作戦会議を終了する。セイド、ソルジャー、ロイアル、以上、呼ばれた者は残り、他は各自の仕事に励め。」
天幕からセイクレッド軍の中心となっている将達が出て行く。
「さて、セイクレッド軍はエクメーネ城の東側を包囲する。セイドは東側の中央、ロイアルは北のアネクメーネ、ソルジャーは南側に陣を布け。警備は三人ずつの交代制。厚く、固い警備をさせ、真夜中でも警備兵の数を減らすな。・・・俺の本軍はセイドの後方にまわり、遊撃軍とする。以上だ。異議は?」
セイド、ソルジャー、ロイアルはうなずいた。
「よし、各自、命令に背かぬよう、心がけろ。布陣は今からだ。」
天幕から三人共、出て行った。
「・・・奇襲するとしたら、恐らく指揮官はゼロス。ゼロス相手では少々、戦いにくいな。だが、地形を生かした策もない。包囲しかできないな・・・。奇襲してきたとき、俺が赴き、なんとしてもエクメーネ城に侵入せねばな。」
アーミィは机に頬杖を突いて、呟いた。
ゼロスが奇襲。一番可能性の高い、敵の行動だ。面倒なことになる。
ブライトの水計もうまくいきそうだ。あとはもう、水をせき止めている厚い板を支えるひもを切れば、水計の始まりだ。これでどれだけの被害を与えられるか、やってみないとわからない。
ひもを切る役は、この策を提案したヴィクトリィ自らがかってでた。
「切るぞ、よく聞いておけ。城壁の壊れる音を。」
剣を縦に振り落とし、ひもを切る。たちまち水が激流で流れ、城壁にすさまじい攻撃をした。堀から水が溢れているが、たいして問題ではない。
「よし、いいぞ。そのまま城壁を破壊しろ!」
ヴィクトリィの命令は、激流には聞こえなかった。もし、水に理解能力があったとしても、この激流の音の中では、ヴィクトリィの声は聞こえないだろう。
セイクレッド軍もブライト軍も、この水計ですっかり勝った気分である。
結局、城壁の破壊はできなかったが、充分な打撃を与えた。あと少し、攻撃すれば、城壁は崩れる。
ゼロス奇襲
「ザー・・・」
激流はゆるやかになっていた。静かな水の音が聞こえる。
イモータル軍としては、この水計は兵を不安にさせる種にもなった。
「大丈夫だ。この程度ではエクメーネ城は壊れん。」
ゼロスの言葉など、全く聞いていないように、兵達はただ、呆然と空を眺めているだけだった。
「駄目だ。兵士達は不安にかられている。これでは戦どころではないぞ。」
隣にいるフレイムが、ゼロスの肩をポンポンと叩き
「まあまあ。私達がなんとか逃げれれば、ここにいる兵は降伏しても許してもらえるだろ。」
「そうだな。だが、私はそう簡単に死にたくはない。ここの兵も最初は死ぬ気でいたというのに、今は不安に押しつぶされている。私の意志も、こんな簡単に変わってしまうのだろうか?・・・それでも、私は生きなくてはならんのだ。」
「ゼロス将軍なら、死にはしません。ゼロス将軍が死ぬなら、私はとっくに死んでいますから。」
「とにかく、生きるのだ。」
「はい。では、奇襲しますか?」
「ああ、準備を頼む。私はこいつらをもとに戻さなければな。」
フレイムが走っていってしまった。私の固い意志も、フレイムのように私のもとから去っていくのだろうか?
「フレイム将軍、どうしましたか?」
作戦をあれこれ一人で考えているマッチが言った。
「奇襲だ。ゼロス将軍のな。」
「この窮地で奇襲ですか?成功するのでしょうか?」
「成功する、しないの問題ではない。奇襲するだけで、敵もこのイモータル軍の見方も変わるだろう。」
「そうですか。」
フレイムはまたどこかへ行った。
「フレイム将軍、セイクレッド騎士団副団長代理、エドワードを討ち破っても、この戦にはなんの支障もないのです。勝ったからといって、この戦自体に勝てるかどうか・・・。」
マッチが呟いた。勝つには、敵を欺かなければ、ただの力押しの戦になってしまう。
ゼロスの奇襲準備は終了し、夜を待った。警備が同じでも、夜の方が、警備兵の眠気を誘い、暗くて見にくいので奇襲しやすい。
「行くぞ。なるべく、音を立てるな。」
奇襲の基本を言って、ゼロス奇襲部隊はそろりそろりと進軍した。遅くても、見付からなければいいのだから。
セイクレッド陣がかすかに見えてきた。この陣はセイドの陣だが、ゼロスは知らない。セイクレッドはさっき陣を変えたばかりだからだ。
「・・・よし、行け!」
奇襲部隊が突撃する。陣の柵を、ゼロスは馬で蹴り倒し、陣内へ進入した。
「奇襲だー!ゼロスだー!」
セイクレッド兵が叫ぶが、奇襲と聞いて、かえって兵は奮起した。
「なんだ?騒がしい。」
天幕から出てきたセイドは、いきなり愚痴を言った。私の眠りを邪魔するな!
「奇襲です!ゼロスが奇襲で・・・。」
セイドの護衛が言った。
「ゼロスが奇襲?考え込まない方がいいな。奇襲如きにうろたえるな!立ち向かえ!増援部隊が来るまで、陣を死守するのだ!」
セイドは命令して、寝ているときも腰につけている剣を抜いた。いつもなら二本だが、一本はさっき折れた。ギフトとの手合わせでだ。
セイドは敵の攻撃を巧みにかわし、敵の首を刺す。骨に当たると折れるかもしれないからだ。
「ゼロス!」
呼ばれたゼロスは振り向いた。
「セイドか。悪いが、私にはお前と戦えない。・・・もう、充分だ!退くぞ!」
「あっ、待て!逃がすな!追え!城内に侵入するのだ!」
セイドの命令はむなしく、兵士達は疲れて、動けないようだ。
「くっ・・・みすみす逃がしてしまうとは・・・。」
セイドには無念で仕方がなかった。敵将を目の前にしておいて、逃がしてしまうなんて・・・。