エクメーネ城の戦い(撤退編)

謀反

「・・・・・・」
何の音もない。これには、私もびっくり仰天だ。音がないんじゃ、「・」で表すしかない。
エクメーネ城内も、セイクレッド、ブライト陣も異常なほどに静かだった。
だが、話している人間がいた。エクメーネ城の第二倉庫の中にいる。
「で、本当にするのか?」
「ああ、そうだ。俺はこんなところで朽ち果てるのはいやだからな。それには、お前も賛成だろ?」
「ああ、でも・・・裏切るなんて・・・。奴らは俺らを歓迎してくれるか?」
「もちろんだとも。大陸最強の国、イモータル最後の戦いだぜ?この戦で勝利に導いた俺達を歓迎しないわけがない。」
「そうだな。よし、やろう。」
「そうと決まったら、さっそく行動開始だ。まずは人員確保だ。もっと賛成してくれる奴がいないと・・・。」
「それなら、俺に心当たりがある。俺の同僚はみんな、死にたくないって言ってるから。」
「じゃ、そいつらに当たってみよう。でも、手土産はなんにするか。まさか手ぶらで降伏なんてできないよな・・・。」
「ゼロス将軍の槍なんてどうだ?ちょうど、俺の親友がゼロス将軍の部屋を守る衛兵でさ。こっそり入って、ささっと盗れば・・・。」
「なら、全部やろう。俺達だけでも、逃げられればいいんだしさ。」
「・・・そうだな。」
・・・・・・倉庫内での会話。おだやかなものではないことがわかる。
「ふあ〜あ。眠いな・・・。でも、二度寝はできないしな・・・。」
セイドが言った。昨日の奇襲のせいで、セイドはくやしくて眠れず、戦った疲れもとれずに、こうして起きてしまったのである。
「・・・まだ日が出ていないじゃないか。仕事が多いからなあ・・・寝れない・・・。」
早く起きることが身に付いてしまっているのだ。
「あ、セイド将軍、おはようございます。」
見張りの兵士が言った。一人で今まで見張りをしていたらしい。目の下にはくまが出来ている。
「ああ、おはよう。おい、くまが出来てるぞ。私が見張りを代わろう。寝てていいぞ。」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
その若い声は、陣中に響き渡った。
「ああ、私も昨日の奇襲で疲れていてな。少しくらいなら、ヒマ潰しにもなる。」
「では・・・。」
見張りの兵は自分のテントへ帰って行った。
朝日がサンサンと輝いている。セイドは、朝日を浴びて、ひと時だけ、今が戦中であることを忘れた。
「アウトローか・・・。なんだ?」
いつの間にか、セイドの横にはアウトローが立っていた。
「何も用なんかねえよ。戦疲れで眠れねえんだ。」
「そうか。」
「なあ、セイド・・・。」
「何だ?」
「お前、戦なんかしてんだ?」
「何故?・・・国王から直々に徴兵を受けたのだ。そこから、兵になり、いつの間にか将になっていた。・・・逆に聞こう。何故、お前は私に協力したのか。」
「俺は・・・協力するつもりはなかったんだ。」
「利用しようとしていたのか?」
「きついな。まあ、そんなところだ。」
「・・・私を利用して、何をしたかったんだ?」
「・・・言いたくないな。俺には個人的なもんがあるんだから。」
「そうだったな。よし、見張り、交代してくれ。」
「へ?なんで?」
「ヒマなんだろ?だったらヒマ潰しに見張りしていてくれ。」
「ハァ、来なけりゃよかった・・・。」
「ご愁傷様。じゃあな。」
「ああ・・・。」
アウトローはただ突っ立ているだけで、何をするでもなく、何考えているわけでもなかった。
昼になり、エクメーネ城内が騒ぎ始めた。
アーミィはその騒ぎを知り、謀反が起こったのだと感じた。
「全軍、エクメーネ城内への突撃準備だ。門が開くはず・・・。ブライト軍にも伝えろ!」
すぐさま伝令がブライト陣へ走る。
門が開いた。重たい音を響かせて。
「よし、全軍、突撃!イモータルを滅ぼせ!」
セイクレッド軍が北門、東門、南門から突撃する。続いてブライト軍も。

突破

「タタタタタ・・・」
セイクレッド、ブライト軍の総力をかけての突撃。イモータルでは防げなかった。
「グロウ皇帝、もう無理です。エクメーネを捨てるしか、生き延びる道はありません。」
ゼロスは、グロウの前にひざまずき、言った。
「仕方がないか・・・。殿軍は誰が務めるのだ?」
「それは私が。早く、急がないと死にます!」
「わかっている。全軍、北門から撤退!アネクメーネ砂漠の手前まで行き、そこから東へ退くのだ!」
ゼロスは王宮の大門まで行き、他の将は全員、北門から進んだ。もう、既に兵は全滅している。
ゼロスの槍は、運よく盗られなかったので、戦いに支障はない。
「この先へお前らを行かすわけにはいかん!」
アーミィはその姿を見て
「たった一人で立ち向かうか・・・。・・・?・・・なるほど。セイド、エクメーネの東側へ行け。グロウなど、敵将が撤退しているはずだから、追撃するのだ。」
「はい。では・・・。」
セイドは自分の軍に命令を出し、エクメーネ城から出て行く。
ゼロスには誰も勝てない。突破すらできないのだ。
「・・・もう退くか。」
ゼロスはそう呟いて、槍を一振りすると、敵の馬を盗って王宮内へ逃げた。裏門からアネクメーネへ行けるのだ。
セイド軍は、イモータルの将達の姿を見付けた。
「あそこだ!追え!」
「まずい。見付かったぞ!突破するしかない!・・・行くぞ!」
フレイムの命令で速度を速める。
セイド軍といっても、急いで出てきたので、隊がバラバラ。突破は難しかったが、無理というほどではなかった。
「くっ。」
ジョゼフの腹に矢が刺さった。
フレイムはそれを見て、黙ってはいられなかった。
「ジョゼフ!」
フレイムはジョゼフの周りの兵を斬り
「ジョゼフ、急げ!早く逃げろ!」
と言った。
「フレイム、エドワードの仇だ!」
突然、背後からセイドの剣が背に刺さり、フレイムは落馬した。
「捕まえろ!」
フレイムは捕まってしまった。フレイム自身、ジョゼフを助けて捕まることは予想できていた。だが、これで味方が助かるなら・・・。
「他の将は逃がしたが、フレイムを捕まえられたのは大功だな。」
縄で縛られたフレイムを見ながら、セイドが言った。
「殺すなら早く殺せ。私を生かしておくと、後々危険だ。」
「では、お言葉に甘えて・・・エドワードの仇っ!」
セイドが剣を高く上げる。と同時に、声がした。
「ゼロスだー!ゼロスが来たぞー!」
「ゼロス?」
「ゼロス将軍!」
フレイムの視界の奥から、ゼロスがさっそうと駆けてくるのがわかる。
「面倒だ。エドワードの痛みを思い知れ!」
セイドの高く上げた剣は、素早く振り下ろされ、フレイムの背に刺さった。
「ぐっ・・・。」
「首を狙ったのに・・・。仕方ない。退くぞ!ゼロス相手では勝てん!」
セイド軍は渋々、エクメーネ城へ戻る。
「ゼロス将軍!」
「フレイム、遅れるな。そこに馬がいるだろう。それに乗って、私について来い。傷はあとで手当てする。」
「はい。」
フレイムは馬に乗り、ゼロスのあとをついて行った。
エクメーネ城はセイクレッド、ブライト軍の手に落ち、旧イモータル領は、セイクレッド、ブライトで半分ずつもらうことになった。