休息
作戦会議
「タッタッタッ。」
と走ってきたのはギフト。
「ソルジャーに遅れをとられてたまるか。」
と呟いた。先ほど兵糧庫で兵士に
「ギフトさん、敵軍が南門に集結しています。そこにソルジャーさんがいることも確認しました。」
と言われたからだ。兵士がギフト、ソルジャーに『さん』付けで呼んでいるのは、戦でギフトとソルジャーの活躍が目まぐるしいので、位は同じくらいでも、そう呼んでいる。
やっとソルジャー(達)のいる城門に着いたはいいが、敵の気配がまるで無い。
「もう、全部やっちまったのか・・・あーあ、ひまだなぁ。」
たしかにそうだ。一兵も残ってない。それに戦のない少しの時間を過ごすだけでも、ギフトにとっては苦痛なのである。
「おお!ギフトじゃねーか。どうした?そんな苦い顔して。」
と、ソルジャーが聞いている。まさかその原因が自分だとは思いもしていないだろう。
「・・・・・・。」
ギフトは仏頂面。おそらくこの先、3、4日はこの二人の間に会話が生じることはごくわずかだろう。
「どうしたんだ?俺、なんか悪いことでもしたってのか?」
ソルジャーがしつこく聞く。今のギフトのような心境の持ち主からすれば、これはありがた迷惑のようなものなのである。
「親父。一人にしてやろう。ギフトも大変だったろうから。」
ギフトからしての鶴の声を発したのは、もちろん、セイドである。
「そうか。俺のは若い世代の考えはいまひとつわからんが、セイドならわかってるから、言うことを聞こう。」
ソルジャーは理由まで言って、従うことにした。
「そうだ。国王はどこに?」
アイリーンがほんの数秒の沈黙を破った。
「国王・・・?余り見かけな・・・」
いが?と言おうとした瞬間、視界に兵士が飛び込んできた。
「あなた達に国王から伝言です。今すぐ、第2会議室へ行ってください。」
と、兵士は言う。疲れた様子はないが、これを憶えるのに苦労したようだ。顔は額からでた汗で濡れていた。だが、この兵士はそんな顔になっても、汗臭そうとかは思わない。爽やかな顔をしているのだ。
「そう。ありがと。さて第2会議室へ行かなければならないが、ギフトはどうする?」
「・・・行く。足手まといは・・・、一番嫌いだ。」
ちょっぴり元気を取り戻したギフトが言った。
「じゃ、全員で行こうか。」
いつの間にか、全員を束ねているセイドが言った。
一行は第2会議室に着いた。作戦会議中のようだ。
「それは〜あれは〜・・・」
ソルジャー、ギフトにとっての生き地獄が二人を苦しめていた。
一方セイドは
「そこはこうした方が〜あれはこうして〜。」
と普通に参加していた。ソルジャー、ギフトにはここで起こっている会話の意味も、全くの理解不能であった。まるで、ロシア語での会話を日本人が聞いているようなものだった。
「さて、本題だがこの先は要所、『枯山』と『枯山城』だ。この二つ越えなければホーリーにはたどり着けない。だが、枯山は幾多もの軍を退け、勢いを衰えさせたことで有名だ。枯山城は、枯山の他に進む道をなくすようにさせるための城。守りは堅固。敵は地の利を生かして戦う。・・・これをどう破るかが問題だ。」
アーミィが説明して、聞いた。
「一方に軍を集中させては?」
名も知らぬ将が答えるが
「攻撃の無い方が軍を動かされたら挟撃されるぞ。もっと名案と言えるものはないか?」
アーミィのたったの一言でボツにされた。
「一方に集中して挟撃されるなら、軍を二つに分けたら・・・?」
セイドが先ほどの将の意見を踏まえて、答えた。
「方法としてはもうないだろう。挟撃されるよりはセイドの案がいいしな。では、私の本隊は枯山、セイド、お前には軍をやるから枯山城を頼む。」
アーミィに・・・国王に頼まれてそれを拒む、なんてやったら首が吹っ飛ぶ。それに、自分の案を受け入れてくれたのに、頼みを断るのは人間として『気遣い』などの感情を持っていないに等しい。
「わかりました。でも将は?」
「ソルジャーとかいるだろう。ただし、ギフトは本隊に入れておく。いいな。」
「はい。」
「あ、そうだ。枯山城の大将はジョゼフだとソルジャーに伝えておけ。」
そして、セイドはソルジャー達のいる席へ戻った。
「親父、枯山城の大将はジョゼフだってさ。ジョゼフって誰?」
セイドは親父、ソルジャーに聞くがソルジャーはなにやらショックを受けた模様。
「・・・馬鹿な・・・ジョゼフと戦えって?冗談じゃない。ジョゼフは・・・俺の・・・」
まだ、続くようだが、セイドはわからない。
「・・・俺の・・・甥だ。」
と、ソルジャーが言い切ったとき、セイドは跳ね上がりそうになった。いや、跳ね上がった。
「おい、親父!今何て言った?もう一回言ってくれよ!」
セイドは怒っているようだ。なんせ、自分が今敵対している国とさほどの遠縁でもない・・・むしろ近いのだ。
「セイド・・・よく聞け。俺とイモータルの超が付く名将、ゼロスは兄弟だ・・・。わかったか?聞き分けのいいお前なら・・・」
「全くわからないな。なんでゼロスはイモータル側にいるんだよ?ウソだと言ってくれよ!なあ、親父・・・私はセイクレッドこそが真の正義だと信じてた。それが他国、ましてや敵対国のイモータルの将なんかが・・・」
まだ、続くようだったが
「・・・セイド、来い。その怒りを俺にぶつければいいだろう?」
ソルジャーが挑戦状を叩き付けた。
「ああ。後で後悔しても遅いからな・・・。」
セイドは、似合わない怒りの表情をしながら言った。
二人とその観客(アーミィ、ギフト等)は外へ出た。
「ふう。さ、圧勝してやろう。力でねじ伏せてくれる。」
ソルジャーが言う。
続けてセイドも
「そんな薙刀で私を斬れない。」
と言う。
「始めるか・・・いくぞ!」
ソルジャーが試合開始のゴングを鳴らした。
ソルジャーが、薙刀を横に一振りして風を切った。が、セイドは素早くしゃがみ込んで避けた。セイドの剣がソルジャーの足目がけて走る。ソルジャーは薙刀の柄の部分でセイドを飛ばした。
「・・・なかなか・・・その武は衰えてないようだな。」
飛ばされて倒れた状態で言った。
言い終わった瞬間、素早く走り、ソルジャーに突っ込む。・・・無謀だった。またもや薙刀の柄で飛ばされたが、セイドの握っていた剣は違う方向に飛んだ。あわててソルジャーは薙刀の刃で、文字通り叩き落した。
勝負はついた。セイドの怒りもまだあるのだろうが、今は気絶しているので、本人でも分からない。
「やれやれ、出来すぎた子を持つと厄介だな。」
と、ソルジャーは足に刺さった剣を慎重に抜きながら言った。
この刺さった剣はセイドが最後に投げた剣。他の者に気づかれることなく、一回多く剣を投げていたのだ。
「ん・・・?ここは・・・。」
気づいたようだ。ここは休養室である。
「よかった。セイドが目を覚ましてくれて・・・。」
傍のチェリーが、今にも泣きそうになっている。彼女のその漆黒の瞳が潤っている。
「わかったから泣かないでくれ。・・・ここは休養室か?」
セイドの怒りはどこへやら。随分と落ち着いている。
「はい。ソルジャーさんと戦って、気絶したんです。」
「・・・ああ、そうだったな。私に何か大きな傷とかは?」
「ないって医者が言ってました。」
「そう。ならいい。・・・チェリー、ここにいるのは・・・」
と言いかけているところに、チェリーが口を挟むように
「私だけです。」
と言い切った。確かに人はいない。軍事の知識や統率力などの一番低い、チェリーだけがセイドの看病を出来たのだ。他はもう猫の手でも借りたくなる程、忙しい。
「そうなんだな。なら私も休んではいられないな。」
と立ち上がった。それまで寝ていたのは、もちろん、布団ではなく、ベッドである。
「もう少しだけ、休みましょうよ。」
「いや・・・私がこうして寝ているだけで、出撃が一日以上も遅れる。チェリーも多少は準備に参加できるだろう?」
「・・・ならセイド。私達が二人だけになる時間をいつかください。生きている限り、いくらでも待ちます。」
「そうか。何をするつもりかわからないが、ホーリーを奪い返した暁にはその時間を作ろう。これでいいな?」
「ありがとうございます。」
チェリーは頭を素早く下げた。
「さて、行くか。チェリー、ついてこい。私の手助けをしてくれ。」
「はい。」
そして、二人とも急ぎ足で歩いていった。
ところ変わって、兵糧庫。
「いてて・・・一応薬、塗ってあるんだがなぁ。」
ここでは、ソルジャーが右足に刺さった剣を慎重に抜いているところだった。
あわただしい兵糧庫のだが、ソルジャーはそんなことは気にもしない。
「あー痛ぇ。・・・こうなったら、一気に抜いてみるか。」
おかしな事を考えている。思い切った発想はソルジャーの得意技(?)だ。同じように、思い切った行動も。
「いち・にの・さん・・・はっ!。」
大声が響き渡る。そして剣も抜けた。傷を増やすことなく。
「よし。これで・・・ん?薬を塗る順番を忘れてしまった。どうするか。」
あわてることもせずに、ない頭を絞って考えていた。
「(どうする?この状態で歩けば、右足に激痛が走るだろう。だが、このまま放っておくのでは、何も変わらない。・・・まあいい。適当に薬を塗ればいいだろ。)」
考えた結果が『適当』だ。それこそ激痛が走りそうだが、今のソルジャーには何を言っても無駄だろう。
ソルジャーは本当に適当に薬を塗っていた。薬の塗り方まで間違える始末。だが、ソルジャーのしぶとい生命力のおかげで、傷は痛くはなくなった。右足は真っ赤だが本人は気にしない。
参謀と地味将軍
「ザッザッザ・・・」
現在、マッチ参謀の軍は枯山、枯山城へ援軍として行軍中。ジミーも一緒だ。
「さて、地味将軍。私は枯山城へ行った方がよいと思うのだが、地味将軍殿はどう考えるかな。」
地味将軍というのは、察しがいい人はわかると思うが、ジミーの愛称である。上官だけならず、部下の兵士にまで『地味将軍』と呼ばれるのは、少々困るものだ。
まあ、ジミー将軍でも地味将軍でも、たいして変わらないので、本人は気にはしていない。
「マッチ参謀、俺は枯山へ行った方がいいと思いますが?」
「何故、そう考える?」
「ジョゼフは俺の兄です。兄よりもフレイム将軍を助けた方が、今後のイモータルのためにもなると思いまして。」
「フレイム将軍は有能だ。だが、その部下、ジョゼフは防衛戦よりも前線で敵を突破する方が得意だ。確かに、敵の本隊は枯山へ行くのだろうが、それはあくまで仮説。フレイム将軍なら枯山の地の利を生かして、敵本隊を手こずらせる程度のことなら出来るだろう。だが、ジョゼフに苦手な防衛戦をやらせるには問題があると私は考えるが、どうかな?」
長々と、説明しながら言った。ジミーはちゃんと理解している。
「・・・わかりました。では、枯山城へ行きましょう。」
ジミーは、半ばあきらめたように言った。マッチの言ったことを理解したからだ。
しばらく歩いていると、ジミーが突然
「マッチ参謀。ゼロス将軍には美人の妻がいると聞きましたが、知ってますか?」
ゼロス将軍はジミーの父だが、母には会ったことがない。ジミーはゼロスに会ったことも少ないので、将軍と呼んでいる。
「知っている。私は一度、会ったことがあるのだが美しかった。ゼロス殿が羨ましいよ。まあ、これもゼロス殿の人望だな。・・・と、このことは妻には秘密だぞ。いいな。」
マッチは妻を恐れているようだ。マッチの妻は怒り出すと止まらない。怒りの熱が冷めるまで、マッチはやられっぱなしなのだ。
「そうですか。わかりました。しかしゼロス将軍も完璧な人間ですねえ。あれだけの権力を持っても、遠慮だなんて・・・もう笑う他にありませんよ。あれで、俺の父親だなんて・・・、俺は何を受け継いだんだか。」
ジミーは笑いながら言った。自分の上官にこれほど気楽に話すのはジミーの長所であり、短所でもある。
「そうだな。」
「そういえば、ゼロス将軍の妻のジョイ様には妹がいると、風の便りで聞きましたが、どんな人なんでしょう。」
「そりゃきっと、姉に似てため息のでるくらいの美人だろうな。」
と、マッチは言いながら早くもため息をついた。
「話が変わりますが・・・ジョン将軍補佐をどう思いますか?」
「ジョン?チェリー・ジョンか?あの王殺人未遂を起こした?」
「はい。俺はどうもジョン将軍補佐はそんなことをやる人とは思いません。」
「人間、見た目だけではないぞ?」
「わかってます。俺に特別な力はないけど、おそらく仕組んだのはプロット将軍補佐ではないかと。」
ジミーの勘はよく当たる。
「何故、プロットだと?」
「一度だけ、見たことがあるんです。プロット将軍補佐が、ジョン将軍補佐をじっとにらんでいるところを。嫉妬の感情を出していました。」
「そうか。プロットが・・・。よしその件については、後で調べておこう。では、地味将軍よ、急ぐぞ。」
「はっ。」
そう言って、二人はそれ以上は話さず、走ることに専念していた。