豊城防衛戦
分裂軍
「ザクッザクッザクッ・・・」
雪をかきわけながら進むゼロス軍。その遅いことったら、腹が立ってくる程だ。
向こうから伝令が駆けて来る。遅いが。
「伝令!敵は豊城前に厚い陣をいくつも布いております!」
「そうか。・・・」
ゼロスは考え込んだ。ゼロス軍は十万いるが、白山での火計を受けてから、士気が一向に上がらない。
「兵力は?」
「はっ。およそ、十万。」
ゼロス軍と同じくらい・・・。アーミィのことだ。きっと、何か策があるに違いない。付近に布陣しただけで夜襲でもかけられそうだ。
ゼロスはアーミィ恐怖症にでもなったかのように、アーミィを恐れている。
「どこか薄い陣はなかったか?」
「はっ。一つだけ、かなり薄い陣がありましたが、その先はわかりません。」
その先・・・。どうせ、伏兵がいて包囲されるんだろう。うかつに動けないな・・・。
この伝令は北から来たのだが、今度は東側から伝令が来た。
「伝令!セイクレッド騎士団は動きを表さず、砦にこもったままです!」
砦とは、三つ子砦のことである。
「・・・よし、ジョゼフを呼んでくれ。」
「どちらが?」
伝令二人はハモッた。
「ならば私から見て、右側はジョゼフ、左側はジミーを呼んでくれ。」
ジミーが加わっているが、そんなことは気にしない。
「はっ。」
伝令二人が軍内を歩き同然の速さで走る。
ジョゼフとジミーがやって来た。
「ジョゼフ、私の軍から五万の兵を与える。東のセイクレッド騎士団を攻撃している軍の援護にまわり、セイクレッドの東側を制圧しろ。」
「はい。」
ジョゼフは敬礼し、兵を集めに行った。
「ジミー、セイクレッド軍は豊城前に厚い陣を布いているそうだ。その中に薄い陣があるから、そこに夜襲をかけて、すぐに退け。深追いすると伏兵に遭うぞ。」
「はい。兵数はどれくらいがいいですか?」
「そうだな。五百で充分だ。敵の総兵力は十万いるが、全員来るわけでもないからな。」
「では、早速行動に移ります。」
「そうしてくれ。兵は私のところから持っていってもいい。」
ジョゼフは五万の兵を連れて、東のセイクレッド騎士団を攻撃しに行った。
ジミーは夜襲部隊を編成し、夜を待った。
待ちに待った夜だ!ジミーは夜襲の最終チェックを済ませ、ゼロスの承諾を得に、総帥の旗が立っている天幕の中へ行った。
「ゼロス将軍、夜襲準備、万端です。もう夜襲してもいいですか?」
「ん?ああ、夜襲か・・・。月は出ているか?」
ゼロスは眠たげにまぶたをこすりながら言った。仕事をしていて外に出ていなかったのだ。
「月なら雲で隠れていて、出ていてません。」
「よし、それなら、夜襲してくれ。月が出ていると、明るくて見付かりやすいからな。」
そこまで考慮してくれたのだ。ま、そりゃ自分の息子が戦場に立つんだからな。
「はい。じゃ、夜襲をかけてきます。」
「ああ・・・。」
ジミーは天幕を出て、夜襲部隊に号令した。薄い陣を狙って、退くと言ったらすぐに退け、と。
夜襲開始。慎重に進むのだが、雪もあるせいで、遅い。
なんとか、例の陣に着いた。さ、さっさと夜襲かけて、退こう。こんな寒いところ、私(管理人兼作者)は嫌いだ。どうでもいいが。
「夜襲だーっ!わーっ!」
敵兵の叫びが聞こえる夜襲効果はバッチリのようだ。
「くそっ!近隣の部隊に応援要請を出せ!」
敵将だ。ただ混乱するだけの将ではないようだ。
「敵増援部隊が来るとやっかいだ。やることはやった!退け!」
ジミーの命令は、夜襲部隊によく聞こえ、早々に退くことができた。
「ゼロス将軍、夜襲は成功です。」
「そうか。私が欲しいのは、夜襲成功の報ではなく、夜襲をして、敵がどう対処したかだ。」
「敵将は近隣部隊に応援要請をしていましたが。」
「そうか・・・。やはり・・・。うかつには攻められんぞ。ここは奴らを止めることだけを考えなければ。」
「え?どういうことですか?」
「攻めれば包囲される。かといって、ここから軍を退かせれば、敵はセイクレッド騎士団の援護に行くだろう。だから、我らはここに留まり、敵軍の動きを止める。セイクレッド騎士団はジョゼフだけでなんとかしてもらうのだ。」
「ですが、そんなことをしてら、各個撃破されてしまうのでは?」
「そうされないために、ジョゼフを送ったのだ。負け戦でも、うまく逃げてくれるだろう。」
「味方の増援の見込みは?」
「ない。私は皇帝に三十万の兵でセイクレッドを滅ぼす、と言ってしまったのだ。今さら退きかえせん。」
「そうですか・・・。」
「今は耐え、ジョゼフの勝利を祈るのみだ。アーミィなら、油断はしないだろうし、奇襲をかけてくるかもしれんが。」
「わかりました。」
ジミーは天幕から出て行く。トボトボ、という感じで。
「ジミー・・・。だが、私の誇りに賭けて、この戦、譲れんのだ。」
一方、セイクレッド軍はどうだろうか。
「では、セイド。後は任せたぞ。」
ゼロスの恐れの種、アーミィが言った。
「はい。本当に城を空けるのか?」
「ああ。ゼロスなら、私に対して怯えているだろうから、放って置いても攻めては来ない。適当に奇襲をかけていればいい。」
「わかった。」
アーミィは出張・・・ではなく、かまくら族本部に帰った、かまくら族族長、ニブル・ヘル・ヘイムに会いに行くのだ。セイクレッド軍だけではどうしようもない、かまくら族の力を貸してくれ、と願いに。
「では、行ってくる。」
アーミィはこのセイクレッド首都、豊城を守る十万の兵から、三万もの兵を持っていくのだ。ま、ビクビク怯えているゼロス相手には、充分な兵数が残っているが。
・・・さて、セイクレッド軍もゼロス軍も、軍を分けたが、これが吉と出るか凶と出るか、まだわからない。
陣崩れ
「・・・」
静かだ・・・。冷戦か?いや、違う。諜報員とかいない。
「さーて、誰が奇襲するか。」
作戦会議議長、セイドが言った。
途端にソルジャーが立ち上がり
「俺がしたい!」
と言った。
「力だけでは駄目だ。この奇襲は敵の士気を下げるためのもの。退き際をわきまえている者がいいな。他には?」
「俺は?」
と言ってから、手を挙げたのはアウトロー。
「アウトローも駄目だ。」
「なんだよ〜。命助けてやったのに。」
「それとこれとは別物だ。私は公私混合しないようにしているからな。」
「ちぇ。」
「他は?」
シーン・・・と静まり返った。
「・・・仕方ない。私が奇襲部隊隊長になる。東側から親父、西側からアウトローが奇襲。私は正面から当たる。他の将は陣の守備に回り、チェリーには豊城の守備を任せる。いいな?」
皆、肯(うなず)いた。そういや、エドワードが死んで、アーミィがいなくなったら、セイド以外に名将がいないなあ。
「よし、各自、私の命令に従い、行動に移ってくれ。では、解散!」
椅子がガタゴトと音をたて、将達は行動に移る。
奇襲準備も終わり、奇襲当日。
「東、西の部隊は正面の私の部隊と連動するから、一気に攻め立てるか。行くぞ!」
正面のセイド奇襲部隊は突撃し始めた。それに呼応して、東のソルジャー奇襲部隊、西のアウトロー奇襲部隊も突撃を開始。
「ゼロス将軍!敵が奇襲してきました!」
ジミーである。
「何っ!アーミィめ、短期決戦を望むか・・・。いいだろう。全軍に突撃命令を出せ!奇襲部隊を適当に迎撃し、敵陣を一気に崩す!」
「はい!」
ゼロス、ジミーは天幕から出て、突撃命令を出した。
まさか、奇襲を仕掛けてくるとは、ゼロスは思ってもいなかった。
「おい、セイド。まずいぜ、こりゃ。」
アウトローが言った。
「ああ、そうだな。一旦退け!」
セイドの命令に奇襲部隊は反応を示した。退いたのである。
「まだだ!この程度で退かせてはならん!全軍、追撃しろ!」
ゼロスを先頭に、ゼロス軍は突撃する。
「お、おい、セイド!これはどうした!」
先陣の守将、ギフトが言った。
「どうしたもない!早く退け!アイリーン部隊にも命令しろ!」
「わ、わかった!」
ギフトは馬にまたがり(セイドとは違い、元役人だからである)、アイリーン部隊のもとへと走った。
「アイリーン、今は退け!奴らは止められない!」
「わかった。退け!」
アイリーンも、何気に馬に乗れるので、逃げられる。逃げ切れはしないが。
歩きのセイドには、これは堪えた。
「全隊、森林内へ入れ!伏兵と連動し、ここで奴らの流れを絶つ!」
森に入るだけの兵を入れて、残りは外で戦っている。
ゼロス軍が森に近づいてくる。
「今だ!伏兵!」
セイドの号令で伏兵が一斉に出てきて、ゼロス軍は混乱した。
「この程度、なんともない!森に火を放ち、逆に奴らを混乱させろ!」
その命令を受けて、誰かが火矢を放った。火矢用の矢を盗んでいたのか?
森を巨大な炎が包み、セイド軍の兵を呑み込んでいく。白山の復讐は果たせただろうか?
「全軍、豊城へ突撃!城門を破壊してでも侵入しろ!」
もう、誰が何言ってんのか、さっぱりわからない。作者の私でも(それはないだろうが)。
火の森を迂回し、豊城を攻撃する。
セイド軍は城内になんとか逃げ込み、城門を閉じた。残された兵は無残にも殺されていく。
「今、生きている者のためにも、死に行く者を助けることはできない。」
セイドは嘆いた。
「セイド・・・。もう、この城はお終いだ。逃げようぜ。」
アウトローが言った。
「・・・仕方ない。だが、奴らにやるものなんて、一つもないぞ!倉庫に火を付け、焼け!」
「おい、それは・・・。」
「いいから!」
「わあったよ・・。」
アウトローはしぶしぶ、全ての倉庫に火を付けた。
「よし、全軍、西門から撤退!敵が来る前に逃げ延びろ!」
セイドが命令し、セイド軍は全軍、撤退した。
「よし、門が開いたか!突撃!」
ゼロスが言うが、中には人っ子一人いない。いや、兵士以外はいるが。
「むう・・・逃げた後のようだな・・・。」
「伝令!倉庫が焼かれています!」
「我らにやるものはない、とでも言うか・・・。まあいい。豊城を取れただけでもよかった。」
ゼロスは一時、ここに留まり、ジョゼフからの報告を待つことにした。攻めるにも助けに行くにも、ここ、豊城は良い拠点だからだ。
ゼロスは豊城の天守閣を歩き回った。何かないか。
扉を開ける。すると、奥のベッドには男が一人、苦しそうに横たわっているではないか。
「お前、誰だ?」
ゼロスは言ったが、返事は期待していない。それほど苦しそうなのだ。
「俺・・・は・・・・・・シック・セイクレッド・・・・・・・・・。セ、セイクレッド騎士・・・団の・・・・・・副団・・・長・・・・・・。」
男は途切れ途切れに言った。
「シック・セイクレッド・・・。セイクレッド騎士団副団長か。見たところ、右手を失ったようだな。・・・フム。落馬事故で右手を折り、皆に迷惑を掛けている。それで、気の病にかかった、というところか。」
「ぐ・・・そ、そう・・・」
「言うな。さて、お前をどうしたものか。」
「・・・殺せ・・・。」
「敵に見つかり、生きるは恥だと言うのか?立派なことを言うな。だが、自分が病に犯されているということ、知っているだろう?」
「だが・・・!」
「・・・生きたくないのか・・・。仕方ない・・・。」
ゼロスは下を向いて、首を横に振った。
「では、お望みどおり、殺してやろう。覚悟は・・・いや、愚問だな。」
ゼロスは帯刀していた剣を抜いた。槍は置いてきたのだ。
「・・・」
シックは目をつぶった。覚悟はできた、の合図である。
剣を振り下ろす。
「ぐはっ!」
「大きい声も出せるのだな。ま、今更遅いがな。」
血が噴き出し、天井には血をドス黒い痕。
「・・・これを望んでいたのだろう?・・・本心からかどうかは知らんが・・・。」
ゼロスはシックの死体を見下ろしながら、呟くように言った。