糧道奇襲

ジョゼフ奇襲

「パチパチパチ・・・」
かがり火の音であり、拍手ではない。
ここはイモータル陣である。
ここ、イモータル平原北部(仮)に、ディヴァインの各国の軍が集結している。西にセイクレッド軍、南にイモータル軍、北にアーマメント軍、東にブライト軍が陣を敷いている。
ブライトはイモータルに乗っ取られたが、騎士団を中心に蜂起して、元に戻ったのだ。
「・・・そうか。敵の補給路がわかったか。」
間諜の話を聞いて、ゼロスが言った。
作戦会議中である。
「さて、皆、セイクレッド軍、ブライト軍の補給路の場所が確定した。これこそ好機だろう。奇襲を仕掛け、敵の糧道を征圧すれば、敵は困惑し、やがて自滅する。」
そこへマッチが反論をする。
「ブライト軍に対しては良策でしょうが、セイクレッド軍相手にはうまくいかないでしょう。セイクレッドにはアーミィがいます。軍は統率が取れていますし、備えもされているはずです。そう簡単には奇襲は成功しないでしょう。」
「だが、せっかく敵の糧道の場所を知ったというのに、それを活用しないわけにはいかん。失敗が目に見えているなら、失敗しないようにこちらも備えていればいいのだ。」
「その備えとは?」
「間諜を増やし、セイクレッドを集中的に調べれば、伏兵がいるとかはわかるだろう。」
「アーミィなら最初から準備をせず、敵が来たと知ってから行動に移るはずです。」
「だが・・・。」
ゼロスは圧倒されているが、あきらめない様子。
突然、イモータル皇帝、グロウが机をダンッと叩いて立ち上がると
「もういい。ゼロス、マッチよ、大人げないぞ。・・・奇襲はやる。セイクレッド陣にはゼロス、ブライト陣にはジョゼフを将とし、数百の兵で奇襲部隊を編成する。いいな?」
と言った。
皇帝に言われてはなんとも言えない。
「異議はないな?よし、会議は終了する。俺には仕事が残っているから、早くしたい。」
自分のことはどうでもいいだろうが・・・。
会議に出た将達は天幕から出て、それぞれの仕事場に行ったり、兵を集めたりしている。
そして、夜を待った。さっきの作戦会議も夜だったのだが、今、待っている夜は明日の夜である。
夜になり、月明かりは雲によって遮られている頃、ゼロスとジョゼフは奇襲部隊を動かし始めていた。
「では、行ってくる。」
ゼロスが手を挙げた。
「成功します。絶対に。」
ジョゼフは答えた。
さて、ジョゼフ奇襲部隊はブライト陣に夜襲を掛けるため、わざわざ森を通って、隠れながら進んでいる。
「伏兵はいないな・・・。とにかく、急ぎたいのだが・・・。」
森の木々が邪魔で、思うように進めないのである。
ジョゼフはどこからか人の気配を感じ、身を震わせた。
「敵がいるかもしれない。用心しろ。」
元から用心しているが・・・。
「今だ!かかれ!」
どこからか声がした。まあ、良からぬことが起こることは簡単に予想できる。
「敵か?自分の身は自分で守れよ!」
草木に隠れていた兵士が出てきて、ジョゼフ奇襲部隊を襲い始める。
「思ったよりは少ない!我らだけでも勝てるぞ!」
本当に伏兵は少なく、数十人しかいないのだ。
しかし、伏兵がいるということは、奇襲に気付いていたのかも・・・なんてことは、ジョゼフの頭にはこれっぽっちもなかったのである。
「くっ・・・敵のが多い。退け!無駄に死ぬな!」
敵将が誰だか、ジョゼフには見えなかったが、これはスプレンダーである。
伏兵の策もスプレンダーの献策だ。
「もういい。構わず進め!」
奇襲部隊は再び進み始める。
だが、もう進むことはできなかった。
森に火が放たれ、進むも退くもできなくなってしまったからである。
「くそっ!火計とはな・・・。とにかく退け!これ以上進むのは危険すぎる!」
ブライト兵が森を包囲しているので、炎の中を突っ切れても、ブライト部隊を突破しなければならない。こんな少数では無理だ。
ジョゼフ奇襲部隊は森を抜け出し、ブライト部隊に出会った。
「包囲されていたのか・・・。」
つい言ってしまった。
スプレンダーが前へ出て来た。
「お前は・・・ジョゼフか?」
「ああ、名前はちゃんと憶えておくといい。この包囲を突破した敵将としてな。」
「突破する勇気があるなら、まずは私と対峙して欲しい。私もイモータルを滅ぼした戦のとき、たった一人で敵中に孤立して大変だった。だが、今こうして生きている。お前は私のように行くかどうか・・・心配だな。」
昔話をするように、懐かしげに言った。
「戦うことはない。ほら、あんたの軍の後ろ、見てみろ。騒いでるぞ。」
「何っ?」
スプレンダーは後ろを向いた。
「いくぞ!」
ジョゼフは槍をスプレンダーの背に向けて走らせる。
「騙したな!卑怯者!」
スプレンダーは振り返りざまに槍でジョゼフの槍を止めた。
「それでも武人か!」
スプレンダーは武人としての誇りを持っているので、騙したりするのは嫌いなのだ。
「イモータルじゃ臨機応変に事態に対応しないと生きてけないんだ。どこかの平和な国と違って、大陸最強、最大の国だからな。」
「誇りのカケラもないようだな!」
「ああ、臨機応変だと言っただろ?」
ギリギリ・・・と槍が音を立てながら震えている。
「スプレンダー将軍、後方から敵です!」
ブライト兵が言った。
「何っ!?」
「・・・終わりだな。俺は帰る。見送らなくていいぞ。」
と冗談めかしに言って、ジョゼフは
「いくぜ!敵中突破でもして、俺達の名を大陸に轟かせてやれ!」
と言って、本当に突破していった。
「無謀な奴だ・・・。後方の敵とは、一体どこの軍だ?」
スプレンダーはするなと言われていた見送りをして、兵士に聞いた。
「イモータル軍です。恐らく、奇襲部隊の救援に来たんでしょう。」
「どうして失敗するとわかったんだろうか?」
スプレンダーはそう誰かに聞いて、部隊の後方に回り、援護した。
「ははは、グロウ皇帝、お久しぶりです。」
とジョゼフは頭を下げている。
「全く、マッチが失敗するだろうと言っていなければ、今頃お前は死んでいたところだったぞ。無茶をして・・・。」
「敵の伏兵に火計ですから、避けようがなかったんです。」
「まあ、お前が生きていればいいか。ゼロスはどうしたんだろうな。」
「ゼロス将軍はマッチ軍師が助けるんですか?」
「ああ、そうなっている。アーミィの策にはまらなければいいが・・・。」
グロウ皇帝直々の助けは、ジョゼフ奇襲部隊を歓喜させた。今頃士気が上がっても仕方ないのだが・・・。

ゼロス奇襲

「タッタッタッ・・・」
ゼロス奇襲部隊はセイクレッド補給路を夜襲する。
「・・・」
ゼロスは辺りを見回した。なにかないか。
「ないな。いくか・・・。」
しばらく進むと、崖に草が生い茂っている場所が見える。
「あんなところにこそ伏兵がいるものだ。注意しろ。」
ゼロスは振り向いて言った。
案の定、進むと伏兵がいたのだが、その将はソルジャー。しかも、崖からは落石で退路を塞がれるという、なんとも危険な状況になってしまった。
「むっ・・・皆、岩のところまで下がれ!私が対処する!」
兵士は言われるままに岩のところまで下がり、近くの石などでセイクレッド兵を攻撃する。
「ソルジャー!こんなつまらない策しかできないのか、アーミィは?」
ソルジャーは、我が子を侮辱されたので、黙っちゃいられない。
「なんだと!?いくら兄貴でも、そいつは言うことじゃないだろ!自分の血をも侮辱しているんだぞ!」
ソルジャーは薙刀を構える。
「私は自分の血で得したことも損したこともない。お前もそうだろう?」
「そうだが・・・血は先祖だ!親父達を侮辱する奴は・・・!」
「殺す、だろう?お前は本当に単純に出来ているな。こうも簡単に考えが読めると、育てるのもさぞ楽だったろう。」
「くそっ、てめえ・・・。」
ソルジャーは薙刀をゼロスに向かって振った。
ゼロスは軽くあしらうように薙刀を避け、槍をソルジャーの首へ向けた。
「どうした?お前はその程度だったか?」
「ちっ・・・。」
ソルジャーも本当のことを言われて、言い返せないようだ。わかってるんだな、自分のこと。
ソルジャーの薙刀はゼロスの首に向かっていくが、ゼロスはそれを槍を止め、手で薙刀を力ずくで奪った。
「あっ・・・!」
「・・・さて、私は二本の武器を持ち、お前はなにも持っていない。この状況でどう戦う?」
「へっ、なにを言われるかと思えば。俺にはこの腕があるし、足もある。充分な兵器だ。」
「鎧相手にか?」
「そこは目をつぶってもらいたいんだがな・・・。」
「残念だが、私は目をつぶるなんて油断はしたくたいのだ。弟の言うことでもな。」
「そいつは残念。じゃ、俺は仕方ないから、こいつで・・・。」
と言って、ソルジャーは腰の刀を抜いた。
「こいつはかまくら族の名刀・・・なんてったっけな。えーと・・・ああ、そうだ。こいつは名刀、『アンサラー』だ。」
「アンサラー・・・。かまくら族が復元したのか。」
「ん?なに言ってんだ?早くやろうぜ。」
「ああ、そうだな。」
アンサラーとは、ケルト神話に出てくる光神、ルーフが使っていた魔剣の名前である。
ちなみにルーフは光槍、ブリューナクも使っていた。
一本の矢が飛んできた。その矢はゼロスの手甲と鎧の間に刺さった。
「矢か・・・。こんなところに当たるとはな・・・。」
ゼロスはチラッと後ろを見てから
「落石もどかしたようだ。私はもう帰る。ソルジャー、達者でな。」
と言い残し、ゼロスはさっさと帰って行ってしまった。
しばらくポカンとしていて、間抜けに口を開けていたソルジャーは、思い出したように
「逃げられた!もういねえじゃねえか!くそっ!」
と叫び始めた。
「ふう、助かったぞ、マッチ。」
ゼロスは一息吐いて、言った。
「ありがとうございます。では、奇襲は失敗に終わりましたが、そう執念深くやることではないでしょう。退きます。」
「ああ、もう休みたいしな。」
ゼロス奇襲部隊とマッチ部隊は、イモータル陣へと退いた。