地味将軍の晴れ舞台
ジミー降伏
「たったったっ・・・」
セイクレッド軍の少数部隊が退いている。
この戦いは敵の動きを探るための戦いなので、少数でいいのだ。
「待て!」
追っているのは地味将軍ことジミー。
だが、いつもの隊長格が着る鎧と違い、一般兵士が着るような安い鎧を着けている。なにか失敗でもやらかしたのか?
ジミー隊はゼロスが夜襲して失敗した崖のところに来てしまっていた。
「逃がすな!速く!」
ジミー隊は追撃するが、崖からの落石で退路を塞がれた。
「落石とは・・・。」
そこへアーミィがやって来た。
「お前達、もう退路はない。どうだ?セイクレッドに降伏しないか?」
ジミー隊の兵士達はお互いの顔を見合い、やがて首を縦に振った。
「それはありがたい。さ、新しい仲間を祝って酒宴といくか。ついて来い。お前達は俺の配下にしてやる。」
いきなり国王の配下・・・?
「ありがとうございます!」
ジミーは忘れられているのではない。一般兵士を装い、セイクレッド陣に降伏兵として侵入するという策の成功のためだ。
セイクレッド陣は酒のにおい(匂いと臭い、どっちがいいだろう・・・)をぷんぷん漂わせ、一番騒いでいるのがソルジャーだということは言うまでもない。
「大国、イモータルからの降伏兵だ!我がセイクレッドの力が示されたときだ!祝え!無礼講だぞ!」
アーミィはもう酔っているようで、叫んでいる。
「いつも無礼講みたいだけどな。」
と、セイドは呟いた。酒は飲めないのだ。
酒宴も終わり、兵士達は片付けに追われている頃、一般兵士の鎧を着たジミーはセイクレッド陣内を探っていた。
「・・・こんなところに兵糧を置いているのか・・・。」
セイクレッドの兵糧は意外にも陣のかなり東側(他陣と近い)にあるのだから。
「そこの兵士。」
ジミーはびっくりした。兵士に扮装しているとはいえ、バレるかもしれないという気持ちはなくならないからだ。
「な、なんですか?」
「このセイクレッド陣の周囲を調べ、敵がいないかどうか確認してくれ。」
「はっ。」
こんなチャンスはないぞ。
セイクレッド陣の北側にも崖があるので、ジミーはそこへ向かった。
崖の上はセイクレッド陣を見下ろすのにちょうどいい場所、高さであった。
「こんないい場所にセイクレッド兵が一人もいないなんて・・・。ま、取り合えず、いい眺めだ。」
しばらくの間、ジミーはセイクレッド陣を景色の一部のように見ていた。
そして、セイクレッド陣の一番叩くべき所なども見つけ、崖から下りて行った。
しっかし、叩くべき所が弱い所というわけではない。どこにアレをやるか・・・。こんな敵中深くでは、成功するかどうかも・・・。
「とにかくやるしかないか。これが俺の使命だからな・・・。」
帥の旗が立つ天幕の中では、アーミィとセイドが会議をしていた。
「・・・ということだ。奴らにやれせておけばいい。」
片手で机に頬杖を突いているアーミィが言った。
「しかし、敵の思うままにやらせるのは・・・。」
「被害もそう多くはないだろう。敵の方がずっと被害のほうがずっと多いはずだ。適当にやらせておいて、成功しそうなときに失敗させれば、士気の落ち方が大きくなる。」
「そうだな・・・。兄上、イモータル軍が攻めてきたら・・・どうします?」
「愚問だな、俺の弟にしては。イモータル軍は簡単に攻めては来ない。攻めてきたら、セイド、お前が陣を守れ。」
「私が?・・・では、その間、兄上は?」
セイドが言うと、アーミィは軽く笑い
「冗談だ。ハハハ・・・。」
と言った。
「・・・で、これからどうするんですか?」
「おい、怒るなよ。・・・これからはジミーの動き次第だ。動いたら、イモータル軍が相当な数で攻めてくるだろうから、それをこの陣で迎撃する。簡単なことだ。」
「そんな笑いながら言うことじゃ・・・。」
「戦なんて誰も望んでいない。だが、敵がいるのなら仕方がないだろう?自分の身を守る一番簡単な方法は、敵を倒すことだ。」
「・・・」
「物語の主人公は正義感溢れる人間が多いが、あれも所詮、敵を倒して英雄になっているに過ぎない。英雄ですら、敵を倒しているのだ。平和主義者には絶対に理解できない思考だろうがな。」
「・・・ふっ、ふふふ・・・そうだな。私達は軍人。国のために生き、死ぬだけのこと。改めて誓う。セイクレッドに生きる、と。」
「セイクレッド兵なら皆、誓っている。その意気だ、セイド。」
「はい。」
「では、その意気込みを仕事の方に持っていってくれ。」
アーミィは、机の下からドンッと書類を置いた。
「兄上らしいな・・・。」
「アーノルドの血は皆こうするぞ?」
「じゃ、今日中に仕事終えますか?」
「できれば。」
「全部やります。」
セイドにとっては無茶ではなかった。こういうときは一日中、天幕にこもって熱心にやるからだ。
イモータル名三将軍突撃
「ダダダダダダダ・・・」
イモータル軍はかなりの兵数でセイクレッドを攻撃しに来る。
正面からゼロス軍、北からフレイム軍、南からジョゼフ軍が突撃し、セイクレッド陣を包囲するつもりだ。
これはジミーの弔い合戦と言っているが、それは表向きのことで、ジミーは死んでなどいない。
そんなこと、アーミィやセイドは知っているが。
「国王、イモータル軍が自陣に進軍しています!」
間諜が言った。
「そ。我が陣の北にいるセイド、西にいるソルジャー、南にいるロイアルに言っておけ。『敵を陣内に一人もいれるな』とな。」
「はっ!」
間諜は天幕から出て行った。
「ふあ〜あ・・・ジミーの奴、早く火計でもやってくれよな・・・。ヒマで仕方がない。」
と言っておきながら、机の上には無造作に山積みにされた書類が。
「北からはフレイムが来るのか。崖からの落石もあるし、心配はない。」
セイドは言った。間諜からの報告を受けたのだ。
同じく、ソルジャーも
「へっ、ゼロスか!適当に森に火でも付けりゃいい。」
ロイアルも
「ジョゼフか・・・。イモータルなんぞ、わしが踏み潰してくれる!」
と言った。
北からフレイム軍。セイド部隊は応戦した。
しかし、なんといっても、崖に挟まれていて狭い。兵の強いフレイム軍が負けるはずがなかった。
「押されているな・・・。」
セイドは敵兵の槍を右手の剣で切り落とし、ついでに(?)、左手の剣でその敵兵の首を刺してやった。
血が勢いよく飛ぶ。
「やれやれ。アウトローは前方にいたな。深入りして来た敵は全滅させた。援護にまわるか。」
セイドは後方の兵に突撃命令を出し、アウトロー一団が主となっている前方部隊の援護にまわった。
「アウトロー!」
セイドはフレイムと対峙しているアウトローを見て、言った。
「ん?セイドじゃねえか。おい、フレイム。俺は不死身だぜ。」
「何をバカ言っている?死ぬ前ならまともなことを言え。」
「俺はマジだぜ。・・・ぐっ・・・。」
「フレイム!」
「セイドか。」
「フレイム!お前が散らした多くの命、その恨みを知れ!」
「もう知っている。私は目の前で多くの人を殺したが、逆に多くの人を殺された。セイド、お前に分かるか?今、ここで私がこいつの首を貫くことは簡単だ。だが、私は今と同じ状況で、セイドの立場になって立っていたのだ。目の前で殺されたのだ!」
「・・・セイクレッド兵の誓い、第一条、国のために生き、死ぬのは当然のことである。乱世を生きるには、全てを捨ててでも生きる覚悟でなくてはならない。・・・セイクレッドを見習え。そんな私情に流されていては、戦場に立てない。」
「・・・お前にそう言われるとはな・・・。」
「・・・フレイム、これは武人としては卑怯な手だった。すまないな・・・。」
「予想はできていた。・・・退け!」
「逃がすか!例え卑怯な手であろうと、勝てば歴史を塗り替えられるのだ!追撃せよ!」
「セイド・・・?」
「アウトロー、お前はここにいろ。陣に退いても火が待っているだろうからな。」
セイド部隊は逃げるフレイム軍を追撃する。
「え?火が待っている?・・・?」
アウトローにはいささか難しい問題だった。
「落石か・・・。ゼロス将軍も落石にかかっていたな。まあいい。皆、生きるのだ!敵中を突破し、ゼロス将軍の軍と合流する!突撃!」
わざわざ退いたのは、兵を招集する手間を省(はぶ)くためだ。
「止まるな!フレイムを生け捕りにするのだ!」
「逃げろ!勝ち目はないぞ!」
フレイム軍はセイクレッド陣を突破し、ゼロス軍との合流に成功した。
「ゼロス将軍!」
「フレイム!?北はどうした?」
「落石にかかり、突破したのです。」
「そうか。」
「将軍、どうしてここで止まっている?進軍しないのですか?」
「うむ・・・この先の森が気になってな。」
「森なんかに恐れてどうした。進軍する!」
「おい、勝手に命令するな。」
軍をいきなり止めることはできない。どんどん進んでいってしまう。
そして、当然のごとく、森に入り、火計に遭ったのである。
「お前は・・・。」
「よお、兄貴!」
ソルジャーである。
「まさか、お前の策にかかるとはな。私も落ちぶれたものだ。」
「んなこと言うな!人が気にしてることを・・・!」
「・・・兄弟ゲンカは・・・これだろう?」
ゼロスは槍を構える。ソルジャーも薙刀を構えた。
「ああ、わかってんじゃねえか!」
何十合も打ち合い、双方とも、全く疲れの色を見せていない。
「兄貴、そんなもんだったっけ?こっちにゃアンサラーもあんだよ!」
「そんなもの、所詮は復元した刀。私の武には遠く及ばぬ!」
「そうか?俺の武が足されたら、どうだ?」
再び何十合も打ち合い、疲れてきた様子。
「もう、年じゃねえか?」
「む、うるさい!」
ゼロスの弱点とも言うべきところである。
「ゼロス将軍!」
「おお、フレイムか!」
「ちぇ、増援かよ!おい、フレイム!」
「な、なんだ?」
フレイムは正直、驚いた。
「てめえ、俺の邪魔すっと容赦しねえぜ!かかって来いや!」
「フレイム、火計での被害が多そうだ。ここは退こう。バカと戦うと疲れる。」
「はい。」
「納得すんな!コラッ!」
と、薙刀を振り回す。危ないったらありゃしない・・・。
ゼロス軍は退いた。これでセイクレッド軍はイモータルの二軍を退かせたことになる。
「ジョゼフ・・・貴様・・・!」
ジョゼフと戦っているのは、ロイアルである。
「ロイアル。もう悪あがきはよせ。」
「悪あがきだと!?」
「そうだ。包囲されているというのに、全く動じず、騒いでいるのだからな。」
「言ってろ!」
「・・・さて、我が軍はセイクレッド陣に侵入した。恐らく北、西からもゼロス将軍とフレイム将軍が来るだろう。ジミーの火計を合図に、イモータル軍全軍突撃だ。ロイアル、一人だけで陣は守れん。素直に降伏しろ。」
「誰がするか!」
とやり合っているところへ、イモータル兵が一人、やって来た。
「ジョゼフ将軍、大変です!」
「どうした?」
「西のゼロス将軍、北のフレイム将軍の軍が撤退しています!」
「な・・・本当か!?」
「はい。」
「・・・ロイアル、一人で陣を守ったな。」
セイクレッド陣内に火の手が上がった。
「ジミーがやったか。救出しなければ。一度、セイクレッド陣に突撃し、ジミーを救出する!」
「はっ!」
ジョゼフ軍は突撃し、セイクレッド陣に深く入っていた。
「ジミー・・・。」
ジミーが縄に捕まり、後ろのアーミィとセイドが剣を首筋へ突き立てている。
「ジョゼフ、遅かったな。」
セイドが言った。
「お前・・・仮にも同じ血が流れているだろうが!」
「私の血には親父の血が混じっている。お前とは違う血だ。」
「貴様・・・!」
「セイド、任せる。俺は腹が減った。」
おい・・・。
「わかった。」
わかるなよ・・・。
「アーミィ!逃げるのか?」
「逃げる?勝手に俺を混ぜるな。お前らでやってくれ。」
アーミィはごく普通に歩いていった。
「アーミィ!」
「ジョゼフ、ジミーはどうするのだ?」
「無論、助けたい。」
「敵に言われても困るな。・・・助ける代わりに、軍を退かせろ。これ以上戦っても、無駄死にするだけだ。」
「本当か?」
「ああ、敵を信じるのならな。」
「・・・信じる。ジミーを解放してくれ。」
「軍を退かせろ。」
「わかった。退け!これ以上は無駄な戦いだ!」
ジョゼフ軍は退いていくが、ジョゼフは残った。
「これでいいな?」
「ああ、解放してやろう。」
セイドはジミーを縛り付けていた縄を切ると
「早く帰れ。それともここで兄弟揃って死にたいか?」
「いや。帰るか。」
ジョゼフとジミーは帰って行った。
「意外とイモータル軍も弱いのだな。兄上の策も楽に成功するだろう。」
セイドは言った。