ハイ山制圧

夜明けの火計

「ザッザッザッ・・・」
セイド部隊の任は暁光山の制圧だけではない。暁光山を制圧し、更に、ハイ山へと火矢で火計を行うのだ。
セイドは兵の火矢を準備している様子を眺め、決心した。
「そこの兵士。」
ちゃんと肩を叩いて言ったので、その兵士は振り向いた。
「なんでしょう?」
「悪いが、私は少し部隊から離れる。火矢の準備が終わったら、私を呼んでくれ。」
「はい。わかりました。」
兵士は火矢の準備に専念することにした。
「すまないな。」
セイドはその兵士から離れ、人影のない所へ出た。
「アウトロー・・・。」
セイドは、寝ているアウトローを見付け、呼んだ。
「なんだ?・・・セ、セイド!?ま、待ってくれ。これには訳が・・・。」
「いきなり騒ぐな。別に叱りはしない。私はただ、部隊から離れて来ただけだ。」
「なんだ、そうかよ・・・。じゃ、俺は安心して寝れるな・・・。」
とすぐに倒れ、寝始めた。この眠りの早さといったら、不眠症の人にとっては、憎たらしい程の早さだ。
「寝るのだけは一人前だな。」
セイドはアウトローを軽く蹴った。
「いてて・・・、やめろ。」
「早く起きろ。仕事が山ほど残っているだろう?」
「ああ・・・そうだけどよ・・・。」
アウトローはいつも仕事をサボっている。戦疲れもあるが、他の理由もあって疲れているのである。
アウトローは各地で盗みを行っているのだ。盗賊の血がまだ残っているのである。
まあ、その部分はセイドも目をつぶってやっているのだが、それによって仕事に支障をきたすのは許し難いことなのだ。
「さ、仕事に移れ。盗みを許してやっているのだから、少しは仕事しろ。」
「でもよ・・・」
反論しようとしたが、やめた。明らかにセイドが有利である。
「・・・わかった。仕事してやるよ。」
「それが普通だ。」
「そう言うなって。」
「・・・では、しっかり仕事をしろよ。」
セイドは歩き始めた。
「おい、どこ行くんだよ?」
「仕事をしろと言ったろう。陣に戻れ。」
振り向いたセイドは再び歩き始める。
「将が部隊から離れていいのかよ?」
「ではアウトロー、お前に部隊を任せよう。」
「なんで俺が・・・。」
「他にいるか?」
確かに、セイド部隊は暁光山を取ることだけが目的なので、大した将はほとんどいない。
よって、セイドがいなくなれば、次に偉い者はアウトローとなる。人材がないのではない。かといって、アウトローが有能だとは言い難い。
「・・・しゃあねえな・・・。わかったよ。引き受けてやる。」
「どうした?いつもなら、『仕事引き受けるから、休み増やせ』とか言うのに。」
「今日は虫の居所がいいんだ。」
「それはよかったな。」
セイドはそう言い残し、暁光山の火矢発射地点の崖へ歩いていった(アウトローには、どこへ行くのか、検討がつかなかった)。
崖へ向かったのは、別に飛び降り自殺なんかするためではない。セイドがそんなことをするか。
ただ単に、チェリーに会う、いや、正確に言えば、チェリーを探しに行ったのである。
崖の近くにチェリーは座っていた。
セイドが歩み寄ると、チェリーは立ち上がりざまに振り向いた。
「一人で部隊から離れるな。敵がどこに潜んでいるかもわからないのだぞ。」
チェリーには、火矢の直前に、ハイ山へ魔法で火をかける任を与えられていた。
火矢だけで火計が成るかどうかはわからないので、魔法が必要なのだ。
その責任は、チェリーには重過ぎた。
「でも・・・。」
「私が説教しても聞くわけないか。でもな、チェリー、私にも、お前を守る任が与えられているのだ。私を任を捨てるような無責任な人間にしないでくれ。」
「わかってます。」
しばらくの沈黙。話の話題が見付からないのだ。
「・・・なあ、チェリー。」
沈黙はセイドが破った。
「何、セイド?」
「・・・この戦乱を作ったのは、他ならぬ私の属する国、セイクレッドだ。・・・これだけ戦をしても、一向に戦乱に進展がないのは、私達が勝っては負けて、を繰り返しているからではないか?」
「私は余り戦争のことは・・・。」
「・・・そうだな・・・。兄に言ってみるか。乱世から辞退しないか、と。」
チェリーにはアーミィがセイドの兄であることを言ってあるのである。
「王がそれをいいと答えるでしょうか?」
「そうは言わないだろうな。一国の王が、『戦争やだから滅びます』なんて言うわけがない。」
「そうですね。・・・陣に戻りましょう。」
「ああ、そうだな。火矢の準備もとっくに終わっただろう。」
二人は陣へ向かって歩いていった。

暁光

「ザッザッザッ・・」
無駄に伸びている草を踏みながら、セイドとチェリーは歩いていた。
「ん?あれは・・・。」
セイドは前方に「何か」が動いているのが見えた。
「よお、お二人さん!兵を持ってきたぜ!」
この口調からすれば、誰かはわかるだろうが、一応、アウトローであると言っておこう。
「アウトローか。気が利くな。では、早速崖へ行こう。」
「ああ。この夜明けと共に、火矢をハイ山に射るのは面白いだろうなあ。」
セイド部隊は崖に着き、矢先に巻かれた油に浸した布に火を付け始める。
「チェリー、頼むぞ。」
「はい。」
「おーし、弓兵、構え!」
チェリーがよくわからない言葉(多分、呪文。そこは作者である私にも分からなかった。・・・おい・・・)を言うと、ハイ山のふもとにある陣から炎が吹き上げた。
これが合図なのかどうかはわからないが、この炎に見ると弓兵が一斉に火矢を射る。
ハイ山と暁光山はかなり近く、一つの山としても見れなくもないほど。
そのため、火矢でも充分にアーマメント陣に届く。
陣の炎は大きくなり、付近の木々をも焼き尽くすであろう勢いだった。
「・・・我らは本隊と合流し、共にハイ山から逃げようとするアーマメント軍を殲滅(せんめつ。意味は全滅と同じだろう)する。急ぐぞ!」
セイド部隊は暁光山をあとにした。
夜明けの朝日と火計による炎が重なり、なんとも言えない絶景が見えた。
「後ろから退け!敵に衝突すれば負けだ!」
燃える陣の中でドリズルが必死に命令する。
「フュリアス!どこだ?フュリアス!」
「どうした?」
「いたか!フュリアスは自分の部隊を連れ、西から山を下りろ!私は北から退く!」
「わかった!」
何故か、なんて聞く余裕はない。
今のところ、セイクレッド軍は来ていないが、近い内に来るだろう。
とにかく今は、火計で混乱した軍を収拾し、一目散にハイ山から撤退することが第一。
セイクレッド軍の本隊、アーミィ部隊は正面からアーマメント陣へ向かったが、もぬけの殻。ドリズルもフュリアスも退いたのである。
「・・・やはり逃げたか・・・。混乱をすぐに収めるとは、中々・・・。敵に援軍が来るだろうが、それは後で対処すればいいか。陣に残った物資を回収しろ!」
ソルジャー、ロイアル部隊はハイ山北部のふもとへ来ていたが、何しろ、見付からないように少数で来たので、撤退する敵を食い止められるとは思わない。
「来やがったな。・・・行け!」
ソルジャーが走り出し、他の兵も草から身を出した。
「伏兵とはな。だが少ない。構うな!突破だ!」
「行かせるな!なんとしても、ここで食い止めるぞ!」
だが、ドリズル部隊は混乱から立ち直ったばかりとはいえ、兵数を見れば明らかにソルジャー、ロイアル部隊よりも多い。突破は明らかだった。
「逃がすか!追え!」
雄たけびを上げるソルジャーの隣には冷静なロイアルが。
「追うな!ソルジャー、ここで追っても無駄だ。ここはあきらめて引き揚げよう。」
「何!?俺が退くのか!?」
「そうだ、退け。それに、戦っているのはお前だけじゃない。わしらもだ。」
「そうだったな・・・。じゃ、追撃は取り止めだ!」
いい加減な指揮官である。
ソルジャー、ロイアル部隊は追撃せず、アーマメント本陣へ向かった。
「・・・逃がしたか・・・。」
ソルジャーの報告を聞き、アーミィは思わずそう言った。
「ああ、突破された。」
「・・・まあいい。さて、早く山を下りるぞ。敵の援軍でも来ていたらまずい。」
「じゃ、伝えてくるわ。」
「そうしてくれ。」
ソルジャーとは入れ替わりに、斥候が帰って来た。
「申し上げます!敵援軍、騎城壁がハイ山を包囲しております!」
「もう来たのか。大陸一遅い騎馬軍として名高い騎城壁が・・・。」
大陸一堅い騎馬軍としても知られているが・・・。
「どうしますか?」
「突破する。セイドとソルジャー、ロイアルを呼んでくれ。」
「はっ。」
騎城壁と言えば、ウラヌスもそこの軍曹だったな、なんてことを考えている余裕を持つアーミィであった。
セイド、ソルジャー、ロイアルはアーミィに呼ばれ、焼けた師の旗がたなびいている天幕へ来ていた。
「私達に話しとは?」
三人を代表してか、セイドが聞いた。
「ああ、大したことじゃない。まだ各部隊は混ざってないから、先程と同じ部隊を指揮し、それぞれでハイ山を包囲する騎城壁を逆落としし、突破。それだけだ。」
とてもそれだけとは思えないが・・・。
「騎城壁を突破するなんて・・・無茶にもほどがある。」
とロイアルが文句を言う。
「それならソルジャー部隊と行けばいいだろ?」
「そうですが・・・。」
「大丈夫だ。ロイアルは自部隊だけでも突破できる。」
セイドがロイアルを励ます。年下に励まされてもなあ・・・。すなおに喜べるオヤジはいないだろう。
「決定でいいな?急げ。」
四人は天幕から走って出て行った。
セイドは北、アーミィは南、ソルジャーは東、ロイアルは北東から突破することになっている。
ロイアルだけのけ者みたいになっているが、ハイ山の西に行っても、後で他の部隊と合流する時が大変になるので、西へは行けず、仕方なく北東になったのである。
そして、セイクレッド軍は四部隊に分かれ、騎城壁の包囲を突破。
セイクレッド各部隊は合流し、アーマメント首都、牙城へ向かった。