ワイルド山防衛戦前編
流軍発見
「ガサガサ・・・」
ブライト軍の斥候が茂みに隠れ、軍の動きを見ていた。
その軍とは、今は王を殺られ、セイクレッドに首都を奪られた旧アーマメント軍である。
だが、ブライト軍はセイクレッドもアーマメントを攻撃していたということを知らない。
主要な将はドリズルとフュリアス。牙城をすり抜けて来た軍だ。
「こりゃ大変だ。ドリズルが来たのかな。」
ドリズルの姿を見ていないのでわからないが、大体の予想はつく。
どうやら敵軍はワイルド山に向かっているようだ。ワイルド山にはブライト陣がある。
「急いで報告しないと・・・。」
斥候は立ち上がり、せかせかと走っていった。
「ほう、アーマメント軍とはな。」
斥候の報告を聞いて、ブライトネスが言った。
隣にはヴィクトリィとスプレンダーがいる。
「グローリーは死にましたから、それは恐らくドリズルでしょう。」
スプレンダーが一歩歩み出て言った。
「お前が殺したんだったな・・・。」
ヴィクトリィは恨めしそうにスプレンダーを睨む。
だがスプレンダーは全く動じない。もう慣れているのだ。
「ドリズルが来たとなると、我が軍も常に万全の態勢でいなくては。」
「作戦も必要です。策もなしに戦っては、相手の思う壺ですから。」
「なら、スプレンダーは休みにしねえ?」
ヴィクトリィの言葉は二人には届かなかった・・・。
「敵陣までの道には崖があります。敵を挑発をし、落石で退路を断てば・・・。」
「そうだな。ヴィクトリィ、恨むのは止めて、敵陣の奇襲でもしてくれ。スプレンダーは挑発、ジョーンズには落石でもしてもらうか。」
言い忘れていたが、ここにジョーンズはいない。下級の将も忙しいのだ。
「王は?」
スプレンダーである。ヴィクトリィは無言ながらも、先程決まった奇襲に喜んでいるので、ブライトネスの事など忘れている。
「わしは本陣を守備する。失敗してもいいよう、いつでも出陣出来るようにしておく。」
「じゃ、俺は奇襲部隊の編成をしてくる。」
「私も挑発部隊の編成と、あとジョーンズに落石の役が来たことを知らせておきます。」
二人は天幕から出て行った。
「・・・ふう、暇だな・・・。」
王の言うべきでない言葉を、ブライトネスはポツリと呟いた。
ブライト軍の三人の将は部隊編成も終わり、夜まで待つことになっていた。
まだ夕暮れである。真っ暗闇まで何時間かある。
暇なので、ヴィクトリィとスプレンダーは狩りをしていた。本国からの兵糧は、アーマメントが山岳地帯のため、届くのが遅い。
狩りと言っても、ほとんどヴィクトリィが獲っていた。グローリーを殺せなかったイラ立ちからか。
ヴィクトリィの視界にある草が数本、ガサッと揺れた。
「来たな・・・。」
だが来たのは・・・猪でも兎でも鳥でもなく、人間であった。
人間なんて、狩ってもどうするのか。人肉は硬く、まずいと聞く(もちろん、かなり昔の話である)。
「人間・・・?誰だ?」
弓を構えた。狩りといったらやはり弓であろう。
「お前がヴィクトリィか?それともスプレンダーか?」
その男が聞いた。
「ああ、俺がヴィクトリィだ。おい、スプレンダー、こいつが用あるらしいぞ。」
「私はそのような男は見たことがない。」
「そうだろうな。私もお前達と会ったのは初めてだ。・・・私はドリズル。聞いたことぐらいあるだろう。」
「?何故敵軍の将が一人でこんなところに?」
スプレンダーは聞きながら弓を構える。
「ただの暇つぶしだ。敵軍の将とも少しは交流を持っていた方が、なにかと役に立つ。」
「・・・で、何を探りに来た?」
スプレンダーである。
「敵の陣形、将の特徴、兵の装備、兵数、武器兵糧の量などなど・・・色々だ。」
「残念だったな。山頂に陣取ってるから、陣形はわからずじまいだな。」
「ほう、山頂に布陣しているのか・・・。」
敵に情報提供するとは、中々のうっかり者・・・。
「で、他には?」
ドリズルが冗談で聞くが、ヴィクトリィは答える気満々である。
「ドリズル殿、冗談は終わりにして欲しい。団長も敵に情報を教えてどうするつもりですか?」
ヴィクトリィにとってスプレンダーは恐い。すぐに口を閉じた。だがいつも口呼吸をしているため、しばらくして苦しくなり、また口を開けた。声は出ていない。
ドリズルはヴィクトリィとは違い、全く動じない。
「さて、収穫は少なかったが、帰るかな。」
ドリズルは背を敵に見せ、余裕な足取りで帰っていった。
その自然さに、ヴィクトリィもスプレンダーも、ドリズルを「敵」とは見なさなかった。
「・・・団長、帰りましょう。」
「ああ。」
二人の狩りは、最後の獲物を逃がして終わった。
作戦決行
「ガサガサ・・・」
ジョーンズの落石部隊は崖に到着し、岩や木などを集めていた。
「・・・よし、これくらいでいいだろう。罠を仕掛けるぞ。」
岩や木を支えている板の縄を切ると、板が岩や木の重みに耐え切れず、岩や木が落ちるという仕掛けだ。
「あとは敵が来るのを待つだけだ。」
ヴィクトリィの奇襲部隊はドリズル軍の本陣に近い茂みに隠れていた。
「のんびりとしてやがる・・・。スプレンダーの挑発がうまくいかないと、奇襲できねえからな。」
ヴィクトリィは挑発の成功を祈っていた。自分が成功するためである。
スプレンダーの挑発部隊は堂々とドリズル軍本陣の目の前まで来ていた。
「ドリズル!我らと戦う気力もないか!?王を弔い合戦はどうした!?」
スプレンダーに続いて、兵士達もドリズルやその兵の悪口雑言を言う。
ドリズル軍の兵の一人がドリズルに
「私はもう耐えられません。どうか、出陣させてください!」
と言った。
「あれが挑発だとは誰が見てもわかる。・・・そうだな・・・あえて策にかかるのもいいだろう。伝令だ。」
「はっ。」
「第一部隊は本陣の北、第二部隊は東、第三部隊は西、第四部隊は南に密集。第一歩兵中隊はこことワイルド山の間にある崖へ行き、落石準備がされていれば落石。第一騎兵大隊は挑発に乗り、奴らを追撃しろ。」
「はっ。わかりました。」
「それと、フュリアスにワイルド山突撃を命じろ。」
「はっ。」
その兵士が走っていくと、ドリズルは一つの小隊を呼んだ。
「なんでしょうか?」
小隊長が聞く。
「お前達には火計をやってもらいたい。恐らく、敵はここに奇襲してくるだろうから、敵が本陣に入った時、本陣に火を放て。」
「はっ。」
自分で本陣を焼いていいのかと思うだろうが、ドリズル軍は兵糧庫や武器庫は本陣とは別の所にあるので、火計をしてもいいのだ。
「ブライトごときにアーマメントは敗れんぞ。」
第一歩兵中隊は崖のジョーンズ部隊を発見し、攻撃した。
「応戦しろ!ここが奪われたらスプレンダー将軍とヴィクトリィ騎士団長が孤立する!」
ジョーンズの叫びは空しく、第一歩兵中隊に負けた。
ジョーンズは迂回し、敵本陣を目指した。ヴィクトリィやスプレンダーに、少しでも力になるためだ。
「よーし、さあ、落石だ!」
第一歩兵中隊長が言うと、縄が切られ、多くの岩や木が落とされた。
崖は封鎖された。スプレンダーの退路はない。
第一歩兵中隊はフュリアス部隊と合流しに崖を去った。
第一騎兵大隊はスプレンダー隊を追撃する。
「挑発に乗ったか。退け!」
だが、スプレンダーの退路はなく、第一騎兵大隊に追い込まれることになった。
「あきらめるな!なんとしても生き延びるのだ!」
スプレンダーの激励により部隊は奮闘し始めた。
「団長の奇襲が成功すれば・・・。」
スプレンダーがヴィクトリィに期待するのは、人生の内で最初で最後である。
・・・で、その期待の星のヴィクトリィはどうしているかと言うと・・・。
「やれやれ、包囲された上、火を放たれるとはな・・・。こんな時こそ、死ぬ思いで奮戦しろ!」
奇襲はドリズルに見破られていて、本陣に侵入したときに第一、第二、第三、第四部隊に包囲され、火を放たれたのだ。
期待の星、ヴィクトリィも死地にいるのでは・・・希望はブライトネス、ジョーンズのどちらかに委ねられた。
勝手に希望の星にされたジョーンズはドリズル軍本陣へ進軍中、ブライトネスは本陣守備のため動けず・・・。
ブライト軍は滅んでしまうのか!?
まあ、こんなところでブライトは滅ぼさせん。