レイニー平野の戦い(前編)
ヴィクトリィ奇襲
「ザーザー」
ここレイニー平野ではヴィクトリィ軍とフレイム軍が対立している。
レイニー平野の来た側にはハリボテ山脈があり、ヴィクトリィはそこに本陣を敷いている。
フレイム軍はレイニー平野南部に本陣を敷いているが、天然の要害のようなものはない。強いていうならば雨か。
レイニー平野の降水量は多く、視界が悪い。
本陣でヴィクトリィは作戦を考えていた。
「ジョーンズ、この雨を利用しての策なら、奇襲以外にないか?」
腕組みをして、いつもの数十倍も考え込んでいるヴィクトリィは、何故だか不自然だ。
「奇襲以外といっても・・・火は使えないし・・・。」
フレイムは嘆いていることだろう。火計が出来ないのだから。
「奇襲に決まりだ。俺が奇襲する。奇襲したら、ジョーンズは三万の兵で突撃しろ。」
「はい。」
ジョーンズ程度の将に三万の兵はきついかもしれない。
ヴィクトリィは奇襲部隊を連れ、雨に打たれながらフレイム軍の本陣を探した。
ブライトの人間といっても、ここに何年も住んでいるわけではないので、土地勘はあまり期待できない。
「ちっ、くそ・・・どこだ?」
ヴィクトリィは悩んだり迷うのが嫌いである。視界が利かないと腹が立つ。
奇襲部隊の影をフレイムの斥候が見付けていた。
「こんなところに味方はいないはず・・・。敵か・・・。」
斥候はすぐさまフレイムの元へ走っていった。
ヴィクトリィ部隊の誰か一人でも、この斥候の姿を捕らえていたなら・・・。
天幕の中に入ると、斥候はひざまずいた。
「申し上げます。敵部隊らしき姿をここから西の方向に確認しました。」
「そうか。数はどのくらいだ?」
フレイムは言った。
レイニー平野を攻めるフレイム軍の主要な将は、フレイムの他、マッチぐらいだ。
マッチは地形などの把握のため、各地を斥候に調査させている。
そういえば、フィリップもいるのだが、この戦での活躍はあまり期待できない。
「はっ。確認できたのは十人ほどです。人の気配が多く感じられたので、五百は越すでしょう。」
「なるほど・・・。奇襲に備え、西側の兵を増やせ。北側の守備も厚くしろ。」
北の守備を厚くするのは、奇襲後に正面突撃があるかもしれないからだ。
「はっ。そのように伝えて参ります。」
斥候は天幕から出た後、雨の中を走った。
「あの斥候、結構礼儀正しかったな。私にもあんな兵士が欲しいものだ。」
敵の攻撃が来るかもしれないというのに、のんびりとしたものだ。
あの斥候、フレイムの兵士でなく、グロウが貸してくれた軍の兵士である。
「・・・お、あったな。よし、これで奇襲を仕掛けられる。」
ヴィクトリィを先頭に奇襲部隊は発見した敵本陣に近づいていった。
姿勢を低くして歩いていく。
騎兵はいないので、いななきや蹄の音で敵に発見されることはない。
部隊の前方の兵から本陣に侵入していく。
「行け!本陣を落とせ!」
ヴィクトリィは兵が侵入していく中、立ち止まり、後方の兵にも侵入するように促した。
部隊のほとんどが本陣に入ると、ヴィクトリィはやっと本陣に入ることが出来た。我慢できたのだ。
ヴィクトリィは本陣の様子がおかしいことに気付いた。
「敵は知ってたのか・・・?ジョーンズを待て!なんとか耐えろ!」
構えていたフレイム軍に奇襲は無駄だった。
「敵を包囲しろ!決して逃がすな!」
フレイムはそう言って、自分も敵兵に攻撃を始めた。
幸い、とでも言うべきか、フレイムはヴィクトリィを見付けられなかった。
ジョーンズ部隊がフレイム軍本陣に突撃し、ヴィクトリィ部隊を逃がしてしまった。
「追撃だ!奴らを逃がすな!」
フレイム軍は追撃し、マッチは千の兵を連れて、ヴィクトリィ軍本陣に迂回して進軍した。
マッチが雨に惑わされずにヴィクトリィ軍本陣に着くかどうか・・・。
ハリボテ山脈
「ザーザー」
雨はさっきよりも増して勢いが強くなっている。
フレイム部隊はヴィクトリィ、ジョーンズ部隊を追撃しているのだが、この雨では見失うだろう。
ヴィクトリィ、ジョーンズ部隊は雨に隠れ、密かにフレイム部隊を挟んでしていた。
「今だ、かかれ!」
ヴィクトリィの命令で、ヴィクトリィ軍は猛攻を始めた。
「挟撃されたか・・・。とにかく耐えろ!頑張って生きるのだ!」
フレイムの激励はあまり効果はなかった。
雨の中での激戦。レイニー平野に慣れていないヴィクトリィ軍もフレイム軍も不利な状況だ。
ヴィクトリィは敵将らしき姿を見付けた。
「敵将覚悟!」
ヴィクトリィは槍を突き出した。
フレイムはそれを見事にかわし、ヴィクトリィに槍を突き出す。
だが、ヴィクトリィはその槍を手で叩いて弾いた。
「・・・貴様、名は?」
フレイムが聞いた。
「ヴィクトリィ。この軍の大将だ。」
「私はフレイム。私も大将だ。」
「じゃ、大将同士で戦の決着をつけようか。」
「・・・止めておこう。どちらが死んでも、この地は我が軍によって制される。」
「言いやがったな!いくぞ!」
ヴィクトリィは自分の能力を低く見られたため、激怒した。
「決着は兵が行う。我ら将のするものではない。」
フレイムはヴィクトリィを挑発する。ヴィクトリィの顔は、雨の中でも真っ赤に燃えるようになった。
「よし、退け!本陣に戻れ!」
フレイム軍は退却の態勢をとった。
「逃がすな!追え!」
伝令がヴィクトリィの元へ来た。
「将軍、本陣が襲撃されております!救援を!」
「くそっ・・・!退け!本陣を守れ!」
ヴィクトリィ軍は本陣へ退いていった。
ヴィクトリィ軍の本陣を襲撃したのは、千の兵しかいないマッチ部隊である。
まず、マッチは百の兵で本陣の兵を挑発。敵に追撃をさせると、残りの兵は山からの落石と逆落としで挟撃し、追撃部隊を撃破。その勢いで本陣を攻撃したのだ。
言い忘れていたが、ヴィクトリィ軍本陣はレイニー平野北のハリボテ山脈にある。
山を横から見ると、東側はゴツゴツしていてたくましそうなのだが、西側は貧弱に見えることからこの名が付いた。
ヴィクトリィ、ジョーンズ部隊が到着した頃には、既にマッチ部隊は退いていて、後のフェスティバルであった。
「フレイムめ。なかなかやるな・・・。あーくそっ!」
ヴィクトリィは地団駄を踏んだ。