レイニー平野の戦い(後編・北部)

知られなかった援軍

「カツカツカツ・・・」
ここはレイニー平野から一転、セイクレッド領の牙城である。
「セイド。」
歩いていたセイドはアーミィに呼び止められた。
「何か?」
「突然だが、今からブライトに兵を送れ。」
「ブライトが戦争をしているのか?」
「そうだろうな。ワイルド山での戦の後、ブライト軍がワイルド山に戻ってこないからな。」
「それで、なんで私が?」
「いつも別働隊を任せているからな。ブライトとの共同戦線を頼んだぞ。」
セイドではいくら頑張っても兄には勝てない。
「・・・わかった。兵数は?」
「そうだな・・・まあ、二万程でいい。」
「将は?」
「それはセイドが勝手に決めていいぞ。アーマメントの方は俺だけでも充分だろうから。」
決して自意識過剰ではない。事実である。
「じゃあな。」
アーミィはセイドを過ぎていった。
セイドは軍の兄貴、ロイアルの元へ向かった。
ロイアルは椅子に座って足を組み、槍の手入れをしていた。
「ロイアル殿。」
「セイドか。どうした?」
「ブライトの援軍に行かないか?」
日常生活では、そう使わなさそうである。
「ブライトの援軍?戦が起きているのか?」
「国王がそう言ったので。二万の兵で行くつもりだが・・・。」
「じゃ、行くか。わしも暇でな。」
と言って、ロイアルは槍を近くの机に置き、立った。
「他に誰を連れて行くのが良い?」
「皆忙しそうだしな・・・。まずはアイリーンだな。」
ロイアルとアイリーンの親子はセットのようなものだ。
「では準備をしてくれ。私は他に将を捜す。」
「わかった。」
セイドはアウトローに会った。
「セイド、仕事は?」
セイドは少し考えると
「アウトロー、私はブライトに行く。私の分の仕事は任せた。」
「俺じゃできねえって。」
「仕事への意欲があればできる。」
そう言ってセイドは歩き出した。
「なんなんだよ・・・。」
アウトローの顔から生気がみるみる無くなっていった。
「セイド。」
後ろから声をかけたのは、チェリーである。
「なんだ?」
「私もブライトに行きたいのだけど・・・。」
「もう広まっているのか・・・。いいぞ。チェリーも援軍に行かせる。」
「ありがとう。」
「軍の編成を頼む。」
「はい。」
チェリーは兵を集めに行った。
チェリーが行く理由の二つ目くらいには、ブライトは魔法研究が盛んだからだ。
魔道士として、魔法には興味があるのだ。
実際、ブライトでの研究はあまり役に立つものではない。
まあ、実状を知らないのだから、期待しても仕方ないか。
この後、セイドは収穫があまりなかった。
重要な仕事があったり、やりたくなかったりで、なかなか捕まらなかったのだ。
ギフトとソローも、セイドの力になるからと、ブライトへ一緒に来てくれることになった。
ロイアル、アイリーン、チェリー、ギフト、ソローがセイドを助けてくれるのだ。
セイドは軍を率いて、ブライトのレイニー平野へと向かった。
一番近く、激戦が起きているのはそこだからだ。
ヴィクトリィはセイクレッドの援軍など考えてもいなかった。

嗚呼、裏切りとバラの日々・・・

「ザッザッザッ・・・」
セイドはヴィクトリィの居る天幕へ案内された。
「ここです。」
案内した兵士がスッと横に立つ。
セイドは天幕の中へ入っていった。
「・・・ヴィクトリィ将軍か?」
「ああ。お前がクルーセイドか。援軍は感謝するが、邪魔をしないようにな。」
挑発的な言葉だ。
セイドは無視した。
「では、レイニー平野のイモータル軍の大将は誰だ?」
「フレイムだ。その下にマッチがいて、フィリップはこっちに裏切った。」
「フィリップが・・・。」
「ま、大した戦力にはならんがな。」
「利用は出来る。フィリップで敵軍を誘い、伏兵で包囲する。」
「じゃ、その伏兵はそっちの軍でやれ。俺は敵本陣を潰す。」
「では、フィリップは借りるぞ。」
「勝手にしろ。」
セイドとヴィクトリィが仲良くなることはなさそうだ。
セイドはロイアル、アイリーン、チェリー、ギフト、ソローを呼んだ。
「・・・ということで、伏兵はロイアル、アイリーンに任せる。チェリーは私と三百程度の兵でブライト本軍の元へ行く。」
「三百の兵で何をするつもりだ?」
ロイアルが聞いた。
「先に行っているというだけだ。レイニー平野はお前達とヴィクトリィで充分。」
セイドはここではジョーンズに会っていないので、ジョーンズがいることを知らない。
「で、俺とソローはどうするんだ?」
「二人にはロンリー高野へ行って欲しい。敵が退却する際、必ずそこを通るだろうから、伏兵をやってもらいたい。」
「わかった。」
セイド軍は三分されたが、ブライト軍がいるのでさほどの危険はない。
一方、ヴィクトリィはジョーンズを呼び、話し合っていた。
「・・・ってことで、北側はセイクレッドに任せた。南部の敵本陣を取りたいんだが、どうするか?」
「はあ・・・。奇襲するのは?」
「奇襲はもう飽きた。他にないか?」
「じゃあ、誘い出すのは?」
「それはセイクレッド軍がやるだろ。もっと他にないのか?」
ずいぶんとわがままな大将だ。
ジョーンズはすっかりこの大将に呆れ果てた。
だが、ジョーンズは呆れた割りには頑張って、ヴィクトリィの説得に成功。
本陣を奇襲するという策で決まった。
フレイムはレイニー平野の中央部に陣を敷いていたため、フィリップ部隊をすぐに発見できた。
「フィリップ・・・裏切り者め・・・!全隊、フィリップを逃すな!行け!」
フレイムは憤然として命令した。
フィリップはフレイムが来たので、逃げて誘う。
フレイム部隊が伏兵に挟撃される辺りに来ると、伏兵が出てきて、フィリップも向きを変えた。
フレイム部隊は大混乱に陥ったが、フレイムは憎き裏切り者の姿を見付けた。
「フィリップ!覚悟しろ!」
「ひっ・・・や、止めてくれ!殺さないでくれ!」
フィリップには将なんて職業は合わなかったのだ。
「問答無用!」
「イモータルに戻るから、殺さないでくれ!」
「なんだと?」
「裏切りは俺の策で、機を見てブライトの隙を突くつもりだったんだ!」
どうみても、怯えて、自分の身を守るためにそう言っているとしか思えないが、フレイムは悩んだ。
「・・・よし、今から裏切れ。そして退路を確保しろ。」
「は、はい!フィリップ部隊の皆、これからはイモータル軍として戦え!裏切るぞ!」
兵士達はいきなり言われて困惑したが、仕方なく攻撃対象を変えた。
「よし、退くぞ!アバンダンス平原まで逃げろ!」
フレイム部隊は撤退し、殿を務めたフィリップもフレイム部隊に付いて行った。
ロイアルとアイリーンは追撃し始める。
フレイムとフィリップの向かうロンリー高野では、ギフトとソローが草木に隠れて、敵を待っていた。