アバンダンス平原の戦い(中編)

撤退援護

「バサッ」
天幕の中にはフレイムとドリズルがいた。
「おお、ゼロス将軍、どうしました?」
ドリズルが聞いた。
ゼロスはレイニー平野から撤退するフレイムらの援護に来たのだ。
敵がいなくても用心はできるのだし。
「お前達の援護に来た。早くアバンダンス平原に来いとのことだ。」
「皇帝が苦戦しているのか?」
フレイムは不安げに聞いた。
「伝令によれば、皇帝は援軍を必要としているそうだ。」
「では早く行かねば。ドリズル将軍、休憩を終わりにして急いで行くぞ。」
「はい。」
ドリズルが天幕から出て行った。
「殿軍はいるのか?」
ゼロスが唐突に聞いた。
「ああ。マッチとフュリアス将軍がヴィクトリィを止めている。セイクレッド軍もいたが、それもだ。」
「セイクレッドがこの戦に顔を出すとはな。大将は?」
「確認できなかった。セイクレッド軍の旗しか見えなかったのだ。」
「そうか。まあいい。急いで退くのだぞ。」
「はっ。」
「私は殿軍の援護にまわる。敵の奇襲にも用心しておけ。」
「わかった。」
ゼロスは自分の兵を連れて北東へ向かった。マッチとフュリアスが奮戦しているはずだ。
「急げ!たかがブライトごときに負けるわけにはいかん!」
ゼロスは馬を鞭で叩き、速度を上げさせた。
兵も釣られて馬を急がせる。
マッチ、フュリアス部隊はヴィクトリィ軍と交戦中だった。
ヴィクトリィ軍が東へ方向転換したとき、フュリアスが追撃したからだ。
マッチも自分だけ退くわけにはいかないので、こうして戦っている。
ゼロス部隊が敵味方の入り乱れた戦場へなだれ込むと、敵は総崩れとなった。
やがて、ヴィクトリィもこれ以上戦っても無駄な兵を消耗するだけだと悟り
「退け!さっさと退くぞ!」
と命令した。
ゼロスはマッチとフュリアスを探した。
「ゼロス将軍?何故こんなところに・・・。」
後ろからマッチの声がしたので、振り向いた。騎乗しながら振り向くのは少し時間がかかる。
「マッチか。殿軍の役目、果たせたようだな。」
「いや、ゼロス将軍の援護あってこそです。それに敵が逃げても追撃をしてしまいましたし・・・。」
ゼロスの表情は、多分、明らかなほど変わった。仮面で見えないのだ。
それでも、声は怒っているような声になった。
「追撃だと?お前は今、皇帝がどんな危機的状況下に置かれているか知らないからそんなことができるのだ。」
「危機的状況?皇帝がどうしたのです?」
「今皇帝は本陣で敵の猛攻を受けている。私は援軍を呼びに来たのだ。」
「では急いで皇帝の援護に行きましょう!」
「無論だ。して、フュリアスは?」
「フュリアス将軍ならあそこに・・・。」
マッチの指差したところへ向かうと、確かにフュリアスがいた。
胴体の鎧どころか、体中が血まみれである。敵兵の血だというのは無論だ。
「暴れすぎだ、フュリアス。少しは抑えろ。」
「ワイルド山での敗戦が嫌になってな。勝ってるとどうも落ち着かなくて、仕方なく暴れてんだ。」
どういう理屈なのかは作者の私にもわからないが・・・。
「まあいい。本陣に戻るぞ。急げ。」
「本陣?アバンダンス平原か。」
「そうだ。急げ!本陣に戻るぞ!」
ゼロスは、いちいちフュリアスに、何故本陣に「急いで」戻るのか説明する気にはなれなかった。
今は一分一秒でも惜しいのだ。

二王一騎討ち

「ガキンッ」
西部砦でのグロウ、ブライトネスの一騎討ちはまだ続いていた。
もうすぐゼロスらの援軍が来る。
この一騎討ちの決着はもうすぐ付くだろう。
付近の将兵はこの一騎討ちのすさまじさに、思わず足を止めて見ていた。
グロウとブライトネスは汗だくである。いい歳してこんなことしているからだ。
「ハアハア、なかなかやるな。」
グロウが言った。
「ハア・・・貴様もな!」
ブライトネスは槍を突き出したが、グロウはいとも簡単そうにそれを避けた。
「これだけか?!」
グロウはブライトネスの槍を叩き落し、穂先をブライトネスに向かって走らせた。
ブライトネスは槍を落としてしまったが、瞬時に腰の剣を抜き、グロウの槍を受け流した。
受け流しながら動いたついでに、足で槍を蹴り上げて手に取る。
剣は鞘にしまった。
「なかなかのもんだ。さすがは王だな。」
「貴様もやるな。皇帝なだけはある。」
そんなやり取りをしていると
「敵だー!敵の援軍だ!」
と、北門から叫びが。
敵がどちらなのかわからなかったが、北門に行くと分かった。
ゼロスの旗印を掲げた騎兵が何人かいたからだ。
「ゼロスとはな・・・。分が悪い。退け!」
ブライトネスは撤退命令を下した。
「追撃だ。生かして逃がすな!」
グロウは追撃を命令した。
「王、ここは私が食い止めます!」
セイドはそう言って後ろを向いた。
「殿軍だ。奴らに負けるな!かかれ!」
セイド部隊は自ら敵に向かっていった。
セイド部隊といっても、全員がセイドの兵というわけではない。
ブライトネスから少し兵を借り、大体二千くらいの兵がいる。
一方、北部砦はフュリアス、マッチ部隊に落とされ、スプレンダーはアバンダンス城を目指していた。
「スプレンダー将軍、伝令です!」
「どうした?」
「アバンダンス城西郊外ではクルーセイド部隊が殿軍をしておりますから、将軍にはその援護に行くようにと・・・。」
「わかった。味方の援護にいくぞ!」
スプレンダー部隊はセイド部隊の救出に成功し、なんとかアバンダンス城に入城した。
「・・・被害が大きいな。少しは役に立たないと、王から借りた兵には謝り切れないな。」
セイドは独り言を呟いた。
ずっとこの城に籠っているわけにはいかない。いつかは出陣せねば。
出陣はいつ頃がいいだろうか、などとセイドは考えていた。