ハリボテ山脈攻防戦
一人偵察
「サー・・・」
風が草花を揺らしている。
ここはレイニー平野である。
雨は降っていない。たまにはそんなこともあるだろう。
タイトルのハリボテ山脈は、レイニー平野の北と東に位置する。
セイド軍は魔学都奪還のため、ハリボテ山脈に陣取ったゼロス軍を撃破しなければならない。
一度ハリボテ山脈を迂回して、南側から攻めることにした。
北側からは、崖があって、攻撃が難しいからだ。
「・・・敵本陣を落とせば、それで勝ちだ。まずは敵陣の配置等を探りたいのだが、誰に行かせるか。」
セイドが言った。
作戦会議、とはいっても、それはセイドとソローが話し合っているだけである。
ソルジャーは命令を受けるだけで、ウラヌスは面倒臭そうだ。
「私が偵察に行く。」
ソローが言った。
「母さんが?まあいいが・・・。」
ソローがフィリップを殺すため、イモータルに不法侵入した上に、何度かエクメーネ城に入ったことがあるほどだ。大丈夫だろう。
ソローは早速、準備を始めて、夜を待った。
・・・夜。満月で雲が全くと言っていいほどない。
かなり明るいが、ソローにとってはよく見えていいだろう。敵兵にはソローの影すら見えないのだろうから。
ソローは、ゼロス軍本陣まで悠々と行った。
茂みに伏せて、陣内の様子を探る。
ゼロスがなにやら将らしき人物と話しているのが見えた。
「・・・ギルト・・・東の・・・・・・。」
遠いからか、よく聞き取れない。
「はっ。」
ギルトは歩いていき、ソローの視界から消えた。
よく聞こえなかったが、まあ収穫はあった。
ギルトとかいう男が東へ行く、というぐらいの見当は付く。
「もう少し調べておこう・・・。」
ソローは久々の偵察を楽しんでいた。
さすがに、朝になる頃にはソローも陣へ帰っていた。
「ギルトとかいう者が東へ行くみたいよ。」
ソローはセイドに報告した。
母が子に報告というのもおかしなものだ。上下も逆転している。
「ギルト?・・・確か、イモータルのピュア湖で稼いでいた奴だな。まだ生きてたのか。」
「じゃ、俺がそいつを押さえるから、セイドが正面から攻めるってのはどうだ?」
ソルジャーが聞いた。
「親父はギルトを押さえに東へ。ウラヌスは西から攻めてくれ。私と母さんで正面攻撃だ。」
「よし!俺がそのギルトって奴を叩きのめしてやるから、期待してくれよ!」
無論、ソルジャーである。
「親父がギルトを倒せないと包囲が完成しない。絶対に勝たないと。」
「期待してくれって言っただろ?」
ソルジャーは一人だけ元気一杯である。
・・・ギルトはハリボテ山脈東部に陣を敷いた。
退路を確保しやすくするためだ。
ソルジャーは兵を連れてギルトの陣へ行った。
レイニー平野で雨の降らない時期に来てよかった、と、セイドはのんきに思っていた。
悪魔降臨
「ガラガラ・・・」
崖から小石が落ちていく。
ハリボテ山脈東部に陣取るギルトは、ソルジャーが来ていることを知らされた。
「・・・敵が来ているのか。ここで迎撃すればいい。」
ギルトは敵にソルジャーがいることなど知らなかった。
知っていたら、恐怖で震え上がったことだろう。
「・・・まだいねえのか、敵は?いい加減くたびれたぞ・・・。」
ソルジャーは愚痴をこぼした。
兵士が一人も愚痴を言わないのに、将で、しかも体力ありまくりのソルジャーが愚痴をこぼすのは妙だ。
ギルトの兵は、陣から少し離れた茂みからソルジャー部隊を見ていた。
「大した数じゃないようだ。」
斥候は陣へ戻り、ギルトにソルジャー部隊の大体の兵数を知らせた。
「はっ。敵部隊は大体千程です。」
斥候は、ひざまずいて、言った。
「千?陣を攻めるのにそれだけとは、なめられたものだ。」
ピュア湖のときとは口調が変わっているが、上の者と下の者との会話では、口調も変わるだろう。
「敵に策があるのかもしれません。」
「そうだろう。ここで迎撃するのが安全だ。」
ギルトは隊形を変えなかった。
「お、見えてきたな。お前ら、軽く暴れてやれ!」
ソルジャーは、後ろについて来ている兵に振り向いて言った。
兵士達はどうしたものか困っていたが、一人が
「オーッ!」
と返してので、後から全員が返事をした。
「敵が来るぞ!」
ギルトの兵は仲間に知らせた。
「矢を射かけろ!陣に近づけるな!」
ギルトは兵の後ろに立ち、命令した。
何本もの矢が飛ぶなかを、ソルジャー隊は身をかがめて進んだ。
「今だ!のろしを上げろ!」
ギルトは、前もって伏せておいた兵に合図を送るよう言った。
茂みから兵が出て来て、ソルジャー隊は挟まれた。
「敵陣を抜けるぞ!ここままじゃやばい!」
ソルジャーは薙刀を振り回し、血の道をつくった。
「進め!」
ソルジャーを先頭に、ソルジャー隊はギルト陣へ向かっていく。
「敵を食い止めろ!陣内に入れるな!」
ギルトの命令は、兵士には無理だった。
血で全身真っ赤のソルジャーを前にすれば、誰だって足がすくむからだ。
「よーし、柵を越えるぞ!」
ソルジャーは柵を、敵兵のわずかな隙を突いて蹴り、柵を踏み越えた。
「陣に入ったぞ!ざまあみろ!」
まだ勝ったわけではないのに、喜んでいる。
もちろん、そこで槍を突き出したところで、ソルジャーは笑った顔をしながら斬るだろう。
幸運か不運か、誰も攻撃しようとはしなかった。
まあ、全身血だらけで笑っているなんて、悪魔か鬼にしか見えないだろう。
この血だらけの笑みを浮かべる悪魔を見てギルトの兵達は、恐怖のあまり、逃げ出した。
ギルトも同様に、この悪魔を恐れていた。
「ひ、退け!ここは危険だ!」
安全な戦場というのもないだろうが、この場合は、戦場よりもソルジャーが危険なのだ。
ギルト部隊はさっさと逃げていった。
この世に降臨した一人の悪魔の姿を背に。
「なんだあ?もうやらねえのか。」
血だらけの悪魔はそう呟いた。