能あるハリボテ兵隠す
悪魔昇天
「ガサ・・・」
ギルトは兵を連れて、ソルジャーに奪われた陣の近くに来ていた。
その陣にソルジャー隊がいる。
茂みや岩に隠れながら、バレないよう、慎重に進む。
「もういいか・・・。」
ギルトらは陣に向かって、短距離走の選手のように走り出した。
奇襲するのである。
ソルジャー隊の一人はギルトの奇襲部隊を見つけていた。
そのことをソルジャーに知らせると
「そうか。よし、いくぞ!売られたケンカは買ってやれ!」
と、ソルジャーが言い出したので、多少驚いた。
・・・もう慣れてきたのだ。
しかし、ソルジャーに思うようにはいかなかった。
先の戦いでソルジャー隊は疲れきっているのだ。
それに比べて、ギルト部隊の疲れはソルジャー隊ほどではない。
疲労の面を見れば、ギルト部隊が有利なのだ。
ソルジャーを悪魔のように恐れたが、ソルジャーもさすがに人である。
疲れを知らないわけがない。
「まずいな・・・。仕方ない。退くぞ!」
ソルジャー隊は退却を始めた。
「追うな!陣を取り戻しただけでもいい。」
ギルトは悪魔を退かせたことで、なんとも言えぬ満足感に溺れた。
・・・セイド部隊、ウラヌス部隊も進軍し、ハリボテ山脈を駆け登っていた。
ソローは特別に兵を与えられ、レイニー平野の中央部の茂みにいた。
別に隠れているわけではなく、前線の後詰がすぐ出来るようにするためである。
もちろん、敵が逃げてきたりしたら、倒しちゃってくれとも言われている。
セイド部隊は正面からゼロス軍本陣へ進んでいるが、落石のせいで思うように進めない。
ウラヌス部隊が側面から攻撃してくれれば助かるのだが、ゼロスのことだ。何かあるだろう。
セイドはなかなか敵本陣までの坂を登れないので、イラついていた。
「一度横にそれろ!落石がこないところまで逃げて、そこで戦え!」
セイドはそう言って自分も横にそれた。
敵兵を誘い出し、味方と協力して各個撃破する。
セイドはそう考えていた。
セイドも、敵兵を誘い、一人だが、敵兵を倒そうとした。
敵も一人だ。心配には及ばない。
セイドは茂みに飛び込んだ。大した防具を付けていないので、こんな身軽な行為ができるのだ。
セイドは、茂みから瞬時に木の後ろへまわった。
「どこだ?」
敵兵はキョロキョロと辺りを見回している。
・・・後ろを向いた。今だ!
セイドは木から飛び出し、敵兵の首を突いた。
「よし・・・。」
セイドはどんどん坂を登って行った。
ウラヌス部隊はゼロス軍本陣を強襲した。
意外にも、本陣の西側には、伏兵も何もなかったのだ。
「将軍!敵軍が来ました!」
本陣で、兵士はゼロスに報告した。
「そうか。では作戦通りに動くよう言ってくれ。」
「はっ!」
ゼロスはその兵士の後から天幕を出て、馬に乗った。
「全隊、東へ退け!」
ゼロスの命令を兵達は素直に聞き、ギルトの奪い返した陣へ退いていく。
ゼロス自身も退いている。
「落石が治まったな。進め!」
セイドは進軍を促した。
「セイド殿。」
ウラヌスはセイドの姿を見付け、呼んだ。
「ウラヌスか。ここまで来るのに敵はいなかったか?」
「いや。ここまでは安全に進めたぞ。」
「・・・まずいな。ゼロスを追いかけろ!急げ!」
セイドは命令した。
「何がまずいのだ?」
兵士が来たからか、セイドは無視した。
「将軍、大変です!この陣には物資がありません!」
「やはりな。早く逃げろ!グズグズしてると死ぬぞ!」
「セイド殿、だからなんなのだ?」
「ここに物資がないのだ。火計か伏兵か二次落石か・・・。必ずどれかが来る。そのまえに逃げる。」
セイドの予想は的中していた。
「やれ!本陣もろとも潰せ!」
ジミーは本陣よりも高いところから、落石の命令をした。
二次落石で、本陣は面白いくらいに潰されていく。
だが、肝心の敵兵はやられたようではなさそうだ。
小さな黒丸が蟻のように蠢いている。
その進行方向は東。ゼロス部隊を追っているようだ。
「ダメだな。落石失敗!ゼロス将軍を助けるぞ!」
ジミーの落石部隊は急な坂を慎重に下りていった。
さっそうと駆け下りるのならカッコよかったのだが、それでは何度もこの世とあの世を行き来しなくてはならなくなる。
何度目の一騎討ちだ
「ガサガサ・・・」
ソロー隊の兵は、寝転がったり、あくびをしたりと、退屈そうだ。
雑談などしていて和んでいる者もいる。
「やれやれ・・・。敵が来たらどうするのか・・・。」
ソローはそう言いながらも、この爽やかな風には勝てない。
・・・眠くて仕方ない。だが、寝るわけには・・・。
目が閉じては開き、閉じては開きの繰り返しで、軽く押したらそのまま倒れて寝そうである。
「敵が来てるぞ!かなりの数だ!」
斥候が言った。
幸か不幸か、眠気はすっかりさめることになった。
「・・・眠らずに済んだ・・・。隠れろ!敵に見つかるな!」
兵は茂みにうつ伏せになって隠れた。
ソローも隠れた。敵の様子が見えるよう、かなり前に出ている。
ゼロスは本隊を連れ、レイニー平野中央部辺りに来ていた。
「・・・お前らはこのまま魔学都へ退け。ギルトとジミーにもそう伝えろ。」
ゼロスが言った。
「はっ。しかし、将軍は?」
「私は少し隊列から離れる。すぐに戻ってくるから、早く行け。」
「はっ。」
ゼロスは部隊から離れた。
辺りを見回している。誰かを探しているようだ。
やがて、探し物を見付けたのか、フッと微笑むと
「ここにいたか、ソルジャー。」
と言った。
ゼロスの視線の先にはソルジャーが立っていた。
「あーあ、見付かっちまった。」
「逃げるつもりはないだろう?」
「そりゃあな。さあ、やるか!」
ソルジャーはゼロスに猛然と向かっていった。
「待て。私だけ騎乗しているのもおかしい。」
ゼロスは急いで馬を降り、ソルジャーを薙刀を受け止めた。
「もう歳なんじゃねえのか?」
「お前もな。」
何十合か打ち合ったが、一向に決着が付かない。
キリのいいところで、二人は一旦離れた。
「いいのか、自分の兵がいないのにこんなところまで来て。」
「私はお前と戦うために来たのだ。他の兵と戦うつもりはない。」
「あそ。んじゃ、いくぞ!」
二人は走り出した。
ソルジャーの薙刀がななめに空を切るが、ゼロスの槍で止められた。
ゼロスは走った勢いで、ソルジャーに蹴りを入れた。
重装備の鎧なので、ガシャガシャ言った。
「痛ってえ!なんだよ、それ?」
「これも戦闘技術のようなものだ。」
ゼロスは槍を突き出し、ソルジャーの首を狙った。
が、ソルジャーは薙刀でゼロスをガンと叩いたため、狙いがズレた。
ゼロスがバランスを崩して倒れた。
「隙あり!」
ソルジャーは薙刀をゼロスの首元へやった。
防具がない、唯一の急所である。
「・・・それで勝ったつもりか?」
「なんだと?」
ゼロスは瞬時に薙刀を持って動きを止め、起き上がった。
起き上がると、両手で薙刀を持ち、足を器用に使って地面の槍を浮かせた。
ゼロスは薙刀を力任せに放り投げると、浮かせた槍を手に取った。
「おい、待て・・・。」
ゼロスは聞かず、槍を突き出してくる。
「あぶねえ!」
ソルジャーは突き出てきた槍を避け、その槍を握って折った。
「どうだ!」
「どちらも手元に武器がないのでは、戦えないな。引き分けだ。」
「なんで?俺の武器はまだ壊れてないのに。」
「手元にないだろう。」
ゼロスは馬に乗り、ソルジャーを後にした。
・・・セイドはジミー部隊を退かせ、ギルトの陣にいた。
ウラヌスに味方の損害を聞いていた。
「・・・かなり多いな。」
「落石に正面から向かっていったのが悪かったのだ。」
「そうだな。無理は避けるべきだった。ここまでやられてはゼロスに勝てない。ましてや魔学都奪還など無理だ。」
「退くのか?」
「ああ。全軍に伝令だ。一旦牙城まで退くようにな。」
「わかった。」
セイド軍の被害は、最初三万いたのが、今では二万程度。
セイドが言うには、これではゼロスに勝てないとのことである。
レイニー平野は、夜になって弱い雨が降り出した。