「カツカツカツ・・・」
そんなにカツが食いたいのか、などと考えないように。
馬のひづめが土を踏み、蹴り飛ばす音である。
アーミィの命令で、セイクレッド騎士団は、本陣西部から南下していった。
と言っても、セイクレッド騎士団の将には、もう団長のテラーくらいしかいないが。
フィリップ隊は崖の上から騎士団の進軍を見ていた。
「全員過ぎたな。落石だ!」
岩だの木だのが崖から落とされる。
「なんだあ?」
テラーは振り返ると
「これじゃ逃げられねえな。ま、逃げる必要なんてないけどな。進め!」
テラーは自信満々である。
「なんだ、あの自信は?まあいい。」
小さなことにうだうだ言う主義でないのだ。
ま、悪く言えば、フィリップの場合は、単なる無能のようなものだ、将としては。
フィリップ隊は、崖から下りていった。
もちろん、落石をした急な坂の方ではなく、ここまで登るのに通ったゆるい坂の方からだ。
フィリップ隊は坂を下りると、フレイム隊の所へ向かった。
フレイムの護衛をするために。
テラー率いる騎士団は、前に四カ国で戦ったときのセイクレッド陣跡に来ていた。
テラーはそのときいなかったので、ここが本陣だったことは知らない。
かなり広く、山や崖に囲まれた場所だ。
わずかな道だけから進めるようだ。他は険しすぎる。
「確か・・・ここを左だったな。」
東へ向かうのだ。騎士団は今、南を向いているから、左で正しい。
テラーも方角を間違えなくなった。まあ、それが普通だ。
「かかれ!」
騎士団に、我先にとばかりに進んでくる部隊。
「応戦しろ!適当にあしらって東に行くぞ!」
フュリアス隊である。
綿密に考えてつくりだした突撃陣形で、騎士団の陣形は瞬く間に崩れた。
かなりの激戦の上に、陣形が崩れ、混戦となっている。
テラーは、さっさとこの部隊の隊長を見付けて、そいつを倒して早く進みたかった。
この激戦では、見付けられるかどうか・・・。
フュリアスもテラーと同じことを考えていた。
ただ、早く進みたいとは思っていなかった。
任務はただ一つ。セイクレッド騎士団を全滅させることだ。
騎士団が全員この戦に参加しているわけではないから、完全な全滅ではないが。
テラーもフュリアスも、敵兵をいちいち切り伏せながら敵将を探すハメになった。
「面倒くせえ!どこにいんだ、敵将は!」
テラーはキレ気味だ。その怒りが敵兵へと向かい、死の宣告をする。
・・・しかし、今は夜中だ。そしてこの混戦。
指定した個人を見付けろ、という方はおかしいくらいだ。
だが、良いことか悪いことか、奇跡が起きてしまった。
「お、ありゃ敵将っぽいな。」
テラーはフュリアスを見付け、敵兵を倒すのに苦戦しながらも、フュリアスに斬りかかれた。
「てめえが敵将だな?」
テラーは槍を構えて、言った。
「すると、お前が騎士団長のテラーか?」
「質問に答えろ。」
「へーへー。これが答えだ!」
フュリアスは槍を思いっきりテラーに突き出した。
盾なんてないし、騎乗しているのだ。防御も回避も無理。
テラーは突き出された槍を左手でなんとか掴んだ。
「これが答えか?」
「・・・さすが騎士団長。容易くやられちゃくれないな。」
「そりゃあな。」
テラーは前にいるフュリアスの奥の旗を見た。
間違いなく、フュリアスの旗印である。
テラーはこいつがフュリアスだと知り、舌打ちした。
どうりでいとも簡単に陣形を崩されたもんだ。
面倒な相手だ。さっさと東へ行こう。
「フュリアス、この勝負・・・もうやーめた!」
子供かい。
テラーは馬をかえし、敵味方の中を突っ切った。
「騎士団、東に行くぞ!」
槍を掲げながら言いたかったが、敵兵がいてそれどころではなかった。
「・・・ふざけた奴だ・・・。」
フュリアスはフッと笑ったが、すぐに笑みは消えた。
「騎士団を追撃するぞ!森に入るはずだから、入り口をふさげ!」
ソルジャーが火計をして、ゼロスを退かせたときの森である。
その森には、フレイムが火計の準備万端で待ち構えていた。
そう。過去形である。今はいないのだ。
フレイム隊は火計をしたくてもできない状況にあった。
テラーの騎士団はそのときに森に入ったのだ。
日頃から、仕事をほとんどやらないという行為からの奇跡だろうか。
イモータル平原北部(仮)の戦い(中編)
騎士団出撃!
猿知恵の勝利
「ガサガサガサ・・・」
テラー率いるセイクレッド騎士団は、森に入っていた。
「いいか。とにかく隠れて、奴らが来たら一斉にかかれ。俺が最初に出るから、それが合図だ。」
テラーは兵に命令した。
騎兵なので、ちゃんと隠れるのに苦労した。
皆、服を破り、それで馬の口(口というのかはわからない)を縛り、いななきが出来ないようにした。
おとなしいため、敵に見つかるには時間がかかるだろう。
その時間の間に攻撃するのだ。
幸い、木は太く、草は長かった。
フュリアス隊は森に入らずにいた。
まるで結界でも張ってあるかのようだ。
「・・・いつになったらフレイムは火計をやるんだ・・・。」
フレイムの火計を待っているため、入るに入れない。
自分から火の中に突っ込むような趣味は、あいにく持っていない。
数十分ほどすると、フュリアスは待ちくたびれ、決心した。
この待ち地獄からの解放のため・・・。
「もういい。やめだ。森の中に入るぞ!火計はやらねえみたいだ。」
フュリアスは先頭に立って、森に突っ込んでいった。
続いてフュリアスの兵が森に入っていく。
フレイムはまだ、自分の用事に手間取っていた。
やかましい馬の走る音が、テラー達騎士団の耳に入った。
「来るか。」
思わずテラーは、そう呟いた。
「どこだ?出て来い、騎士団の奴ら!」
フュリアスは辺りを、キョロキョロと、血走ったような目で探した。
相当来ているのだ。
フュリアス隊はどんどん進んでくる。
「もういいか。」
テラーは馬を走らせ、巧みに木々を避けていく。
フュリアス隊は少し草木のない場所にいた。
ソルジャーの火計で燃えたのだ。
その草木の少ない所へ、テラーは長い雑草から飛び出していった。
着地予定地点付近に敵がいたので、飛んでいる間に斬っておいた。
ドンッと大地を揺るがし、敵味方の注目を浴びた。
馬が二本足で立つと、テラーと馬は太陽の光に輝く。
「かかれ!フュリアス、覚悟しろ!」
テラーはフュリアス隊の真っ只中を突っ走って行った。
その鬼神のような力は、誰にも止められない。
フュリアスはテラーの勢いを見て、恐怖を感じた。
「こりゃまずいな。退け!奴とは戦うな!」
そう命令しながらも、自分は逃げようともしない。
「テラー・・・俺が止めてやる。」
逃げ惑う騎兵達の中、フュリアスは立ち止まっていた。
「いたな、フュリアス!いくぞ!」
テラーは一向に止まろうとする気配がない。
それどころか、ターゲットを見つけて、スピードアップした。
テラーが近づいて来ても、フュリアスは槍を構えようとしない。
テラーの槍は、フュリアスの馬上の空気を切った。
フュリアスはその前に、瞬時に馬から降りたため、斬られずに済んだ。
「ちっ、逃げるのか?」
「もちろん戦うぜ。」
フュリアスは槍をテラーの馬に突き刺した。
「おっと。危ねえ、危ねえ。」
立ち上がる馬よりも早く、テラーは馬から降りた。
立ち上がった馬は、勢いが強すぎたのか、そのまま後ろへ倒れた。
「さあ、行こうか。」
フュリアスは言った。
「ああ。覚悟しておけ!」
既にフュリアス隊の兵は退いており、騎士団の兵もフレイム隊を攻撃していた。
てなわけで、ここではテラーとフュリアスが二人っきりということである。
月光の青い木漏れ日を浴びながら、暗闇の森で戦うのは格好よいものだ。
テラーは、私がナレーションをしている間に、勝手にフュリアスに斬りかかっていた。
ナレーション終わるまで待っていろ。
小説の中じゃ、複数のことを平行して説明できないんだぞ。
まあ、そこは大目に見てやろう。仕方ない子達ねえ。
「さすがフュリアス!だがな、これで終わりだ!」
テラーはフュリアスの突き出してきた槍を避け、その槍を掴んで折った。
「武器がないんじゃ、なにもできないだろ。」
「俺は槍しか持っていないわけではないぞ。剣があるぜ!」
フュリアスは腰の剣を鞘から抜いた。
ジミーだったら、剣術が得意だから勝てるだろうが、フュリアスは・・・。
使いにくいのか、防御に徹しているのか、とにかく攻撃に移れない。
テラー一人がガンガン押しまくっている。
そんなことをやっている様子を、フュリアス隊の一人が見ていた。
フュリアスを心配して、逃げずに隠れていたのだ。
「将軍がやられっぱなしだ・・・。手助けしないと!」
「!」マークが付いているが、大声を出したわけではない。
固い意志などを示すときにも使えるのだ。
隠れていたフュリアス隊の兵は、持っている弓を構えた。
背中の矢筒から矢を取り出す。
ギリギリと弦を引き、手を放した。
矢がテラーに向かって空中を走る。
矢は見事にテラーの肩に刺さった。
「痛っ・・・!」
「誰かいんのか?」
フュリアスが辺りを見回す。
兵士は飛び出して行った。
「将軍、早く退きましょう!」
「ああ・・・わかった。テラー、この勝負、また今度だ。待ってろよ!」
「痛ってー・・・。あ、ああ・・・今度は邪魔がないようによろしく頼むぞ。」
「もちろん!」
フュリアスとその兵士は西に走って行った。
「痛い痛い・・・。さて、俺も行くかな。」
テラーは森から東へ向かって走り出した。