イモータル平原北部(仮)の戦い(後編)
国王援護
「ガサガサガサ・・・」
伏兵と一騎討ちで見事にフュリアス隊を退かせたセイクレッド騎士団は、森を抜けようとしていた。
血のにおいや鉄同士がぶつかり合う音が聞こえている。
「敵がいるにしても、味方がいるなんてな。」
アーミィが突っ込んでいったことなど、テラーは知らない。
「ま、いいか。早くここを抜けるぞ!味方の援護に行く!」
騎士団の進軍速度は速くなった。
森の外が見えて来ると、兵の死体がゴロゴロしていた。
ゴロゴロというのは、昼寝とかのことではない。
フレイムの旗が見えた。セイクレッドの旗と「帥」の旗も。
「国王がこんなところに?・・・とにかく、援護して、さっさと終わらせないとな!」
テラーはフレイム隊の中に入っていった。
フレイムは、先程から善戦をしているというのに、騎士団が来たことで、キレ気味だった。
「アーミィだけにも苦戦しているというのに・・・。突破するぞ!本陣に戻れ!」
無理である。
アーミィ部隊はフレイム隊の北、東、南を包囲し、騎士団とは混戦状態。
フレイム隊はただの火計部隊だ。兵力からして違い過ぎる。
工作隊が、国王の部隊と国の精鋭を破れるはずがない。
「突破させんな!このまま暴れろ!」
騎士団と混戦していては、突破どころかどこへも移動できない。
「仕方ない。あの旗は騎士団だな。テラー、勝負だ!」
フレイムはテラーを探した。
まあ、あまり見たことはないが、なんとなくわかるだろう。
「どこだ、テラー!」
テラーは自分を呼ぶ声がしたので、目の前の敵兵を急いで倒し、振り向いた。
「敵将みたいだな。来いよ!」
フレイムはテラーと距離を置いて止まった。
「お前がテラーだな?」
「そっちは?フレイムか?」
「ああ。さて、自己紹介も終わった。いくぞ!」
フレイムは槍を突き出した。
あまりにも素早く、正確なため、テラーはなんとか槍で弾いた。
ブルブルと手が痺れる。
「まだだ!」
フレイムはテラーの槍を叩き落した。
地面に落ちた衝撃でバウンドした槍を、テラーは馬から落ちそうになりながらも取った。
「すごい芸当だな。」
「いやあ・・・練習してないんだけどな。」
と、テラーは照れている。
テラーが照れた途端、フレイムは再び槍を突き出して来た。
「うおっと!」
テラーは馬から落ちた。
突然のことで、とっさに取った行動である。
大した怪我もせず、テラーは体勢を整えた。
「まだだ!」
フレイムがまた槍を突き出した。
いつもフレイムが攻勢では、テラーに勝ち目はない。
まあ、そんなことを考えている間に、フレイムが攻撃して来るのだが。
テラーはフレイムの槍を何度も何度も避けていった。
なんとも身軽な動きに、フレイムもついていけないようだ。
「いつまで避けるつもりだ!」
フレイムはキレていた。
うーん・・・「?」を付けるべきなのだが、フレイムとしては答えて欲しいわけではないからなあ。
「お前が死ぬまで避けるぞ!」
テラーは笑みさえ浮かべている。
その笑みが、フレイムを完全にキレさせた。
一撃一撃の力の入れ具合が、先程とは、素人が見てもわかるほど強くなっている。
「危ねえ、危ねえ・・・。」
と言いながら、テラーは槍を振る機会を探している。
もう、切る空気までなくなるくらいに槍は振られていた。
フレイムは、マリファナとかでもやったかのような、恐い目をしていた。
さしずめ、テラー依存症とでも言おうか。
フレイムは力がなくなってきたのか、よろけて、倒れそうになった。
「反撃いくぞ!」
テラーは攻勢に移った。
フレイムの首を狙って槍を向ける。
「覚悟は・・・できてなくてもいいか。別に。」
敵のことなどどうでもいいのである。殺すのだから。
・・・って、あれ?
あらー?手が動かねえぞ・・・?
「おとなしくしろ。」
あー・・・やばい。幻聴が・・・。
「幻聴じゃない!」
「いきなり大声出すな!耳イカレちまうだろーが!」
「もう死ぬのに何を言ってんだ。」
「死ぬ・・・って?」
テラーは、やっと自分のいる状況を理解した。
フレイムを殺そうとしたところを、この変な奴に邪魔されて・・・。
フィリップがテラーを捕まえたのだ。
ただ単に両手を押さえているだけだが。
「フレイム将軍に槍を向けたのだ。死んでその罪を償え。」
「お断りするわ。」
フィリップは足を押さえ忘れていた。
テラーは思いっきりフィリップの足を踏んだ。
「痛っ!」
「じゃあな!」
テラーはフィリップを蹴った。
フィリップはそのまま後ろへ倒れた。
フレイムの姿はない。逃げたのだろう。
「しょーがないな。国王を助けないと。」
テラーはフィリップを殺さず、アーミィを探した。
意外にも、すぐに見付かった。
「国王!」
「テラーか。来てくれて助かったぞ。」
「そりゃどうも。俺は早く敵の本陣に行きたいんだが・・・。」
「騎士団だけで行くのは危険だ。少しは我慢しろ。」
「へーい。」
フレイム隊とフィリップ隊は西へ逃げていった。
追撃するのもかわいそうなくらいにボロボロだった。
「あの程度なら放っておいても大丈夫だろう。さあ、進め!」
アーミィはここにいる味方に号令をかけた。
フレイムがいたのだ。全然大丈夫じゃない。
皇帝援護
「ガチャガチャガチャ・・・」
鎧や剣の音が騒々しい。
まだドリズルは逃げられずにいた。
「もう無理にでも逃げろ!」
と叫びたかったが、それすらも無理だった。
ほとんど兵はやられていて、戦うのが嫌になるほど負けていたからだ。
ドリズルも自分の身をなんとか守っているところだ。
これはもう、死体を盾にしないと生き残れない程。
まともに戦うのなんてアホらしい。
ドリズルは必死で敵兵と戦っていた。
必死過ぎて、グロウの部隊が来たことになど気付かなかった。
グロウはドリズルと戦う敵兵を突き刺した。
「ドリズル!無事か?」
「ん?皇帝?何故こんなところに?」
「援護に来たのだ。作戦通りにな。」
今まで本能で戦っていたようなドリズルは、頭の回転が悪くなったようだ。
「ああ・・・。で、これからどうします?」
「もちろん逃げる。俺が殿軍をやるから、お前は早く退け。」
「皇帝を守るための盾ですから、敵に背を見せるのは一番最後です。」
「盾だろうが剣だろうが、早く逃げろ。このままでは死ぬぞ。」
「は、はあ・・・。わかりました。」
今はグロウに逆らっても無駄だ。
ドリズルは南へ逃げ始めた。
「んー?敵が増えたぞ?どういうことだ?」
ロイアルは考え込んだが、三秒もしないで止めた。
ヴィクトリィ同様、悩むのは嫌いだ。
「ま、とにかく、敵将を倒せばいいか。」
ロイアルは、敵将が皇帝であることなど思いもしていない。
グロウも敵将を探していた。
軽くいなして、さっさと逃げよう。
激戦とはいえ、少人数の戦だ。敵将らしき人物を見付けるのは容易だった。
ロイアルが先に見付けた。
グロウの派手で大きなマントを見れば、悩む必要もない。
「敵将だな?覚悟!」
グロウはロイアルの存在に気付き、振り向いた。
猛然と自分に向かってくる猪のような男を見た。
「あれが敵将か?・・・にしては無謀な奴だな。」
とロイアルを批評しながら槍を構える。
ロイアルが槍を大きく横に振った。
グロウはそれを受け流すと、ロイアルは槍と共に回りながら姿勢を低くした。
スライディングの格好になって、グロウの足を蹴る。
グロウは馬に乗っていなかったのだ。
グロウは前のめりに倒れこみ、ロイアルを重みで苦しめた。
「痛えよ!どけ!」
ロイアルが殴ったり蹴ったりするが、グロウの鎧に当たっては痛い思いをした。
グロウは立ち上がり、瞬時に槍をロイアルの首元に向けた。
「・・・これはこれは・・・。」
ロイアルは愛想笑いをした。
「これで、ここから楽に逃げられる。」
「そうか?俺はそうは思わねえけどなあ・・・。」
ロイアルは倒れたままだが、グロウの足を払った。
「おわっ!?」
グロウが倒れこむ。ロイアルはその前に横に転がっていた。
「立場逆転だな。」
「・・・む・・・面倒な・・・。」
グロウはうつ伏せのまま言った。
「さ、もう面倒な思いもしないで済むようになる。我慢しろ。」
「永遠にそうなりたくはない。」
グロウは槍を振るった。
「危なっ!」
ロイアルは後ろへ下がった。
その間にグロウは立ち上がった。
「さらば!」
グロウはさっさと逃げていった。
途中、適当に余っている馬に乗った。
騎乗していた兵が死んだのだろう。
グロウの部隊は本陣に退いていった。
ドリズル隊も本陣に向かっているはずだ。