孤軍ホーリー防衛戦
ヘイムの策
「サー・・・」
葉や草が風に揺れた。
ここはセイクレッド領のホーリー城。
かまくら族族長のニブル・ヘル・ヘイムはここを守っていた。
アーミィが言うには
「敵はこちらの攻勢の隙を突き、ホーリーを攻めるはずだ。」
というらしいので、ヘイムが守備にまわったのだ。
今、このホーリーは秋を迎えようとしている。
雪好きなヘイムとしては、微妙な寒さで雪も降らない冬は好きでない。
やる気はないが、とりあえず王の命令に従っておいているのだ。
ヘイムは暇なので本を読んでいたが、やがて外へ出た。
城壁に登ると、城外を見渡した。
「はあ・・・。敵、来ないといいけどなあ・・・。」
戦がないのがいいのだが、それを仕事にしている人間が言うのは・・・。
タッタッタッと、誰かが走る音がした。
「なんだ?」
斥候である。
「はっ。敵軍がやって来ます。」
「将は?」
「マッチです。」
自分と同じ名前にしたのを、少し後悔している。
「フレイムとかはいないのか?」
「はい。」
「・・・わかった。引き続き、調査を続けろ。」
「はっ。」
ヘイムは大隊の隊長らを集めて、話し合いをした。
・・・マッチ軍はホーリーを包囲した。
もっとも、城門のない北側へは行っていないが。
西、東、南の各地に陣を敷き、南東の森の近くに本陣を敷いた。
兵力は十五万。
それに比べて、ヘイム軍の兵力は五万。
おまけに包囲されていると来た。勝ち目はあるのだろうか。
「・・・いい夜だ。始めろ。」
ヘイムは言った。
ホーリーの北の裏口のようなものから、数百の兵が出て行った。
目指すは西の陣。
立ち止まることなく進み、奇襲は成功した。
「将軍、奇襲は成功しました。」
「西の部隊を突撃させろ。」
「はっ。」
ヘイムは夜の暗い雲ばかり見ていた・・・。
西城門が開き、部隊が突撃を始める。
・・・西の陣が強襲されていることを、南の陣の将は知った。
「ここの守備を怠るわけにはいかないが、仕方ない。半分の兵で行こう。」
半分の兵数、二万の兵で西の陣に向かった。
本陣に五万、東、西の陣に三万、南の陣には四万の兵がいるのだ。
西の陣は奇襲と強襲を連続して受けたため、混乱中だった。
「将軍。」
斥候がヘイムの元にやって来た。
「敵が動いたか?」
「はい。南の部隊の半数程が救援に行きました。」
「そうか。西はもう少しで落ちる。その時に南城門を開けろ。」
「はっ。」
城門を開いて何をするかは、もう教えてある。
南の陣の部隊が救援に来たが、西の部隊は期待できなかった。
いくら味方が来ようが、相手の勢いには勝てないからだ。
最初に混乱したので、陣形はもう直らないだろう。
増援が来たところで、返り討ちに遭うだけだ。
この後も、戦況はヘイムの読んだ通りになっていくだろう。
西の陣が落ちそうなことなど、本陣にいるマッチは知る由もなかった。
ヘイムの策パートU
「ゴオオオオォォォ・・・」
西の陣は炎に包まれていた。
南からの援軍は返り討ちに遭い、全滅。
無論、もといた西の陣の部隊もだ。
ヘイムの命令を待たずに、南の城門は開いた。
いちいち命令しなくても、勝手にするように言ってあるのだが。
城門からは兵が飛び出し、松明も持たずに突っ走っていった。
真正面に突き進めば、南の陣に到着することは調査済みだ。
ほんの千程度の兵が陣を攻撃した。
だが、数分して退却を始めた。
「なめられたもんだ。追うぞ!城内に入り込め!」
さっきの将は死んだので、こいつは違う奴である。
城門は開いたまま。無防備だ。
ヘイムの兵は城門をくぐった。
続いて南の陣の部隊もくぐるが・・・。
一向に進まない。
そりゃそうだ。猛攻を受けているのだから。
城門に隠れていた兵が南の部隊の侵入を邪魔していた。
背後からも攻められていた。
城門近くの茂みにでも伏せていたのだろう。
完全に包囲され、南の部隊もまた、西の部隊と同じく全滅した。
伏兵達で、南の陣はありがたく頂戴した。
「将軍、南の陣は奪取しました。」
斥候がわざわざひざまずいて言った。
ヘイムはそれを止めさせると
「一旦守りに入るよう言え。」
と言った。
「はっ。」
だが、それが出来るかは問題だった。
さすがに西の陣陥落の報はマッチに届き、本陣の部隊は南城門に来ていたからだ。
頂戴した南の陣は無理矢理奪われ、城門付近での激戦となっていた。
ここまで来られると、さすがにヘイムも高みの見物はできなかった。
「ひるむな!押し返して門を閉じろ!」
ヘイムは城壁から矢を射ていた。
このままでは城内に入られる。
「城壁からとにかく何か落とせ!敵を一人でも多く倒すのだ!」
兵は城壁からなんでも落とした。
ただのゴミ、武器の破片、落ちていた石・・・。
それが却って敵を怒らせたが、城門で戦うには兵が多すぎた。
弓もなく、後ろにいるので敵と戦えない兵が多く、それを暴れさせたのだ。
敵の後方は怒り狂う兵で混乱していた。
「よし、城門から奴らを追い出せ!」
城門の兵は奮起し、敵は城門から追い出された。
城門が速やかに閉じられる。
「一旦本陣に退くぞ!」
マッチの声が聞こえた。
「この聖都ホーリーは、誰にも穢(けが)れさせはしない。」
ヘイムは逃げるマッチ隊を見ながら言った。