暁光山砦の戦い(後編)
砦再建
「ザッ」
セイドの足が地面を少し滑った。
といっても、ずっこけたわけではない。
「大丈夫か?」
セイドは、自分の腕に支えられているチェリーに言った。
腕が温かくなっていく。
「あ・・・はい。大丈夫です・・・。」
長い桜色の髪を垂らしながら言った。
「もう敵も退いただろう。少しいいか?」
セイドはチェリーを立たせた。
返事も待たずに、突然腕の中に包んだ。
「セイド・・・。」
「・・・嫌か?」
「そんなことない。これからも・・・こうしていて欲しい。」
「そうか・・・。夜でよかったな。他に誰一人としていない。」
こんな山中なら、昼でも誰もいないのだ。
改めて、セイドは夜に感謝した。
・・・朝には、もう城に戻っていた。
「おい、セイド。夜中に何やってたんだよ?皆混乱してたんだぜ。」
口調からして、アウトローである。
「敵が来なかったのだ。過ぎたことを言うな。」
「なんか変わったな・・・。ま、いいか。」
「さて、敵はどう動いている?」
「今暁光山砦を修復してる。ほとんど焼け落ちてるから再建かもな。」
「誰がやっている?」
「ギルトだ。奴らの後続らしい。」
「またしても暁光山砦か。夜襲するか。」
「夜襲、ねえ・・・。俺がやるけどさ、セイドはどっか行くなよ。」
「わかっている。夜襲、頼んだぞ。」
「ああ。」
アウトローは自分の連隊の所へ行った。
「・・・暁光山にばかり気を取られていてはならないな。」
セイドはそう呟いた。
夜になると、アウトローの奇襲部隊が動き始めた。
目的は「敵を混乱させること」であって、「敵を倒すこと」でないと注意された。
暁光山砦修復はギルトが指揮している。
木々や草花の間から、アウトローは砦を見た。
確かに焼け落ちている部分は目立つが、門などもある程度直っている。
多くの兵を交代制で、全体の休憩をなしに、修復作業をしていたのだろう。
「ありゃすごいな・・・。さ、いくぞ!。」
アウトローは飛び出した。
続いて部隊の兵も飛び出す。
「敵だ!砦を壊させるな!応戦しろ!」
ギルトは混乱せず、命令を下していた。
火の付いた棒を投げ、砦を少しでも焼こうとした。
「火を消せ!せっかくの修復を無駄にするな!」
ギルトの命令空しく、奇襲部隊の思うがままとなった。
「もういいか。退くぞ!」
奇襲部隊はさっさと退いていった。
砦の火は消されたが、前以上に酷く見えた。
新しく付けた木材などがただれるようになっているからか。
フレイムはこの報を聞き
「仕方ないな。警備隊をつけよう。夜襲はそれで防げ。」
と言った。
警備隊を付けても、アウトローは警備隊をも倒して奇襲するので、効果はなかった。
フレイムは今後どうハイ城を攻略するのやら。
ハイ城攻略下準備
「ガサガサ・・・」
フレイム軍はハイ山を登っていた。
ハイ城を目指しているわけではなく、ハイ城を攻めるための場所をとるためだ。
ハイ山のふもと辺りで一旦休憩をとることにした。
ハイ城は山頂付近にあるので、ふもと辺りを取れればいい。
まだ敵はいないが、用心に越したことはない。
炊煙が立ち昇る。
これじゃハイ城から見えそうだが、敵が出てくる様子はない。
「ここまで来てもなにもないとは、何かあるな。」
フレイムの予感は的中した。
セイドとアウトローの部隊が草木の中から飛び出して来たのだ。
「来たか。応戦するぞ!」
フレイムが命令する中、ギルトは
「もう少し休ませてくれ・・・。」
と言いながら、茶碗を静かに置いた。
後で食べる気なのだ。のんきなものだ。
セイドはフレイムを探した。
エドワードの仇・・・。殺してもまだ足りない・・・。
「フレイム!見つけたぞ!」
セイドの目には、憎き敵しかいない。
フレイムはセイドを見た。
近づいたら殺されそうなくらい恐い顔である。
そんな顔を見るのは、フレイムは慣れていた。
「セイドか。」
セイドは早速フレイムに斬りかかった。
フレイムは槍で防ぐが、セイドは器用に左手の剣でフレイムの腰を衝く。
軽い傷で済んだが、血は結構出て来る。
セイドは手を休めずに、剣を振ろうとしている。
フレイムは瞬時に剣を強く叩き、後ろへ二歩下がった。
血で足場が濡れている。
激しく動けば滑るだろうから、少し避けたのだ。
セイドは走り出した。
フレイムの流した血を踏み、跳ね飛ばして。
右から剣が来る。
フレイムはそれを手甲で防いだ。
左からの剣は槍で防いだ。
だが、セイドの攻撃はまだ続いた。
セイドはフレイムの腹に蹴りを入れた。
鎧だから大した痛みはないが、衝撃で後ろに倒れることになった。
ドサッと倒れたフレイムは、首筋に痛みを覚えた。
ふと横を見ると、剣が突き刺さっていたのだ。
フレイムは剣とは逆方向に転がった。
途端にザッと音がした。
セイドの剣が地面に刺さったのだ。
セイドは二つの剣を両手で一度に抜くと、フレイムを向いて構えた。
「フレイム・・・悪運の強い奴め。」
「褒めてくれてありがたいな。」
「ふざけるな!」
セイドは剣を持ち直した。
走ろうとしたが、誰かに腕を取られた。
「セイド!もう止めろ!退くぞ!」
アウトローである。
「こいつを殺すまでは・・・!」
「殺(や)るなら後で殺れ!」
フレイムは辺りを見渡した。
なるほど。
セイドとの戦いに集中し過ぎて、周りが見えていなかったようだ。
セイド軍はハイ城に退いたのか、ほとんどいない。
フレイム軍の圧倒的有利となっていた。
「セイド、早く逃げるといい。私はこの辺りに陣を敷くのだ。邪魔するな。」
フレイムは言った。
「貴様に言われて従うものか!」
「しゃーねえよ。今は退くんだ。」
「・・・わかった。フレイム、次に会うときまでに、首をちゃんと洗っておけ。よく斬れるようにな。」
「それはいつになるのだろうな。」
アウトローはなんとかセイドをハイ城に退かせた。
「陣を敷くぞ!ハイ城はもうすぐ我らのものだ!」
フレイムは言った。
ふもとにはかすかに雨が降り出していた・・・。