イモータル平原の戦い(前編)
セレネ
「バサッ」
天幕に誰か入ってきた。
「誰だ?」
入り口に向かって机があるのだが、目を向けるのが面倒だ。
「アーミィ。」
なんとなく、なんでも通り抜けそうな、透き通った声がした。
「・・・セレネか。なんだ?」
アーミィはやっと顔を上げた。
見慣れた美人がそこにいた。
美人は三日で飽きるとか言うが、普通、美人はどんなに凝視しても飽きない。
「他の所だと、皆恐い顔してますから。」
「戦争だからな。仕方ないことだ。」
「なら、なんで戦争を?」
「さあな。・・・バカな男の誇りのためだろうな。」
まさに自分のことだ。
敵のくせに同じ血を引くゼロスに腹立つのだ。
セレネにはそれがわかった。
「・・・アーミィのためなら、戦争なんて・・・。」
「俺も愛されてるなあ・・・。」
アーミィは冗談まじりに言い、頭をかいた。
・・・あまり冗談に聞こえないが。
「セレネ、親父の所へ行ってくれ。」
ソルジャーが父であることは言ってある。
他に知っている人間は少ない。
「ソルジャーさんは酒浸りだと思います。」
「セレネが行けば酒も止まるだろ。何か話でもするといい。」
アーミィは一応セイクレッドの王だ。
そして、この軍の総大将でもある。
これから戦をどうするか、話し合いをしたいのだ。
それには、兵でもないセレネが邪魔になってしまうのである。
「わかりました。」
セレネが後ろを向くと、アーミィは
「・・・後で会おう。来なかったら会いに行く。」
と言った。
セレネは微笑んだだけで、何も言わなかった。
やがて夜になり、セレネはアーミィの天幕に来た。
天幕をろうそくがわずかに照らしていた。
天幕に入ると、アーミィの姿が見えた。
「セレネ、少し時間をもらうぞ。」
アーミィはろうそくを倒した。
セレネは抵抗しなかった。
・・・朝になり、小鳥がチュンチュン鳴いていた。
まだ物々しさを知らないのだ。
アーミィとセレネは起きていた。
「もう朝か。セレネ、ここで寝ているといい。」
アーミィは天幕から出た。
王たる者、いつまでも寝ていられない。
こうやって早起きして、警備についている兵を気遣ってやるのだ。
・・・単に仕事が面倒なだけかもしれない。
本陣の東側へ行った。
敵陣はイモータル平原の東側にあるからだ。
セイクレッド軍は第一陣、第二陣を配置し、防衛ラインを引いたのだ。
そのおかげで、敵はほとんど攻めてこない。
ま、こちらからも攻めないが。
アーミィはボーッとしていて、木にぶつかりそうになった。
第一陣突撃
「サー・・・」
イモータル平原に風が吹き、草が揺れた。
アーミィは第一陣に伝令を送った。
第一陣は、基本的に騎士団である。
「・・・で、攻撃しろと。」
第一陣の大将、テラーが言った。
「はっ。敵より先に攻撃するようにと、国王が仰りました。」
「国王が、か・・・。わかった。他の奴らは知ってるのか?」
「他の伝令が行きました。」
「準備が出来次第、突撃するから、待っててくれ。」
「国王にそう伝えて参ります。」
伝令が離れると、テラーはため息を吐いた。
「まだ戦で疲れてんだけどなあ・・・。」
一年程前に戦をやったが、その後の仕事で疲れたのだ。
国が誇る精鋭騎士団の団長は、やはり忙しい。
昼にはもう、第一陣は進軍していた。
敵陣が見えてくると、第一陣は速度を上げた。
敵の混乱する様子が見える。
先頭の騎士団の中にいるテラーは
「かかれ!奴らに苦しみも与えるな!」
と叫んだ。
陣には簡単に乗り込めた。
後はここの将を倒せば、突撃は成功である。
テラーは敵将を探した。
なんとなく、知っている奴がいた。
「お前が敵将か?覚悟!」
早速斬りかかる。
相手は瞬時に振り返り、槍で防いだ。
「・・・貴様、テラーか?」
ジョゼフは言った。
騎士団長なだけあって、少しは華美な鎧なので、そう推測した。
「ああ。お前は?」
「この陣の将、ジョゼフだ。」
こんな会話の間でも、斬り合っている。
「敵将さんか。じゃ、ここで死んでもらうか!」
テラーの槍は隙を見て、ジョゼフに一直線に向かった。
それをジョゼフは槍で横から押さえた。
槍はジョゼフの横を貫いた。
「貴様こそ敵将だ。死んでくれるとうれしいけどな。」
ジョゼフはテラーの腕を取った。
「何すんだ!放せ!」
「安心しろ。痛いだけだ。」
ジョゼフはテラーの足を思いっきり払った。
バランスを崩してテラーが倒れた。
テラーの左手はジョゼフが持ったままなので、手をひねって痛い思いをした。
痛みに耐えながらも、テラーはジョゼフの腕を引っ張った。
ジョゼフは前のめりに倒れた。
「どうだ!これで終わりだな!」
ジョゼフに槍を向けると、ジョゼフはそれを手で避けた。
テラーが呆気に取られていると、ジョゼフは後ろへ走り出した。
馬に乗ると、さっさと走っていった。
「あ、逃げんな、こら!」
テラーも騎乗して追いかけた。
馬術の面ではテラーが上だが、敵兵が邪魔だ。
結局、敵兵の邪魔によってジョゼフを逃してしまった。
「ちぇっ。まあいいや。陣は取れたし。」
陣は取っても、逆に取られているとは思いもしていなかった。
テラーは敵の逃げていく様子を喜んで見ていた。