ラグナレク大陸上陸は成功だった。
ビフレストまではそう遠くない。上陸できたのだから、勝利は目前だ。
・・・女尊男卑は、ミッドガルドの支援を受けながらディヴァインを攻撃した。
だが、ガブリエルの奇襲で出鼻をくじかれ、士気を低くなったので、逃げることになった。
ディヴァイン軍には、一応ルーフ一団も参加していた。
その妻パーシバルも、である。
ルシフェル自らが指揮を執っても、やはり団結力のある軍にはかなわなかった。
女尊男卑の軍は、ビフレスト辺りまで退いていた。
ガブリエル隊とルーフ一団が先発隊として進軍していて、ビフレストはもう間近だった。
かくて、女尊男卑は、ミッドガルドの援軍を祈るばかりなのである。
「ガブリエル将軍」
ルーフが言った。
今、部隊は休憩中だが、隊長格の人間がそう自由に動き回ることはできないはずだ。
まあ、そこはルーフの自由奔放さが表れているということだろうか。
「ルーフか。こんなところにいていいのか?攻められたらどうする」
簡易な椅子に座ったまま、ガブリエルは言った。
「まあ・・・作戦を聞いてないからさ。先発隊の指揮官は将軍だろ?」
「ああ。作戦は簡単だ。ビフレストに侵入する。
 意地でもな。簡単だろう?」
「そう簡単にいかないんじゃないか?あっちの方が数は多い」
「量より質。俺らの方が戦力は上だ。援護がなくても勝てるだろう」
「・・・ま、いいか。俺が死んだら責任取ってくれよ」
「ルーフが死ぬなら俺はとっくに死んでいるな」
ガブリエルは笑った。
作戦は日が暮れてすぐ実行された。
ただ先発隊全員で突撃するという、無謀極まりないものである。
だが、慎重にいけば相手もこちらをなめてかかる。
多少無理があっても、力ずくでやれば、相手もこちらを実際よりも大きく見てくれる。
本隊が来るのだから、今敵を壊滅状態にさせる必要はない。
闇夜に紛れて、兵士たちが走り出す。
隠れることはない。堂々と足音も出している。
あちこちから銃声が聞こえた。
どうやら始まったようだ。
ガブリエルは足を速めた。
・・・ビフレスト侵入は容易いものだった。
ルーフ一団はガブリエル隊から離れ、勝手な行動をしたが、まあいい。
パーシバルの案内で、簡単に入ることができた。
守備隊がいたが、ごく少数だったので、突破は難しくなかった。
とにかく街中を進んでルシフェルを探す他にない。
暗闇の中で敵を見付けるのは、容易ではない。
それでも、ルーフ一団は止まらなかった。
騒々しい銃声に威圧されながらも、慎重に進んだ。
敵が出てきても、団員が瞬時に撃つ。
・・・しばらくして、ガブリエル隊と合流した。
ビフレスト制圧も楽になったが、ルシフェルには逃げられたようだった。
日が昇り始めた頃、ルシフェルはシグムンドと話をしていた。
「ビフレストを捕られたか」
シグムンドは言った。
野営陣で、簡易テントの中で話している、
「はい。本隊を待つでしょう」
ルシフェルが言った。
・・・首都ビフレストが奪われたというのに、女尊男卑のリーダー、
 ルシフェルは特に悔しむこともなかった。
平然としている。
「本隊と合流したら・・・ここに来るか」
「恐らくは」
「・・・天気予報では、明日雨が降るらしい。明日、来てくれればいいが・・・」
もうすでに、女尊男卑はなくなっていた。
ミッドガルドと併合したのだ。いや、取り込まれた。
ルシフェルは、シグムンドと同等の立場でなくなったのだ。
ビフレストで戦った兵士達は、無駄に死んだということだ。
そして、翌日。
天気予報通り雨が降っていて、じめじめしていた。
ビフレストでは既に先発隊が本隊と合流していて、進軍し始めていた。
シグムンドの軍が陣取るオーディン平野へ、である。
シグムンドは自ら戦うことが主義だった。
ここでも、その主義を信じ、戦おうとしていた。
シグムンド率いる特別攻撃隊は、敵を待ち構えていた。
雨と草木に隠れ、敵を待つ。
そして・・・敵が来た。
誰なのかはわからないが、ディヴァインの旗だけは確認できた。
雨に隠れて、敵にできるだけ近づく。
「行け!」
シグムンドの号令で、一斉に銃声が飛び交う。
突然攻撃されたのに、敵に混乱する気配はなかった。
後ろから重い音が聞こえてきた。
振り向くと・・・戦車だった。
ミッドガルド軍の戦車、スレイプニル主力戦車である。
雨天時でも晴天時同様に稼働し、攻撃、防御力も最大限まで上げてある。
唯一の問題は、人の走るくらいの速さでしか走れないことだった。
「来たか。主力が来た!行け!」
シグムンドは銃を捨て、持っていた剣を抜いた。
グラム・・・2m近くある長剣だ。
雨の中なら銃よりもナイフや剣の方が使いやすいことがあるが、
 ここまで長いと、天気に関係なく、常に使いにくそうだ。
これを使いこなせるのは、シグムンド以外にいないだろう。
シグムンドの横を主力戦車が通っていく。
水がはねて来たが、気にしない。
雨の中を、特別攻撃隊が走っていった。
ディヴァイン軍の先発隊はほぼ全滅状態だった。
本軍はビフレスト。・・・まだオーディン平野にいるディヴァイン兵を倒さなくては。
長剣グラムを振り回し、巧みに兵士を斬っていく。
剣が長いので、シグムンドよりグラムの方を先に見てしまう。
シグムンドがどこにいるのかもわからずに斬られるのだ。
スレイプニル主力戦車の砲口には、わずかな煙が立っていた。
・・・ここは一応オーディン平野だが、シグムンドらは近くない。
まだビフレストに近い。シグムンドらはオーディン平野の中央部で戦っている。
ガブリエル隊は先発隊の援護に向かっていた。
その途中、道を間違えたのか、こんな森に来てしまっていた。
あまり小さくはないらしく、先程から迷い続けている。
「こんなところで足止めを食らっていては・・・」
ガブリエルは愚痴をこぼした。
背後で、銃声が聞こえた。
「なんだ?敵か?」
見ると、既に5人程地面に横たわっている。
そして、首筋に冷めた物が当たった。
見てはいないが、もう見慣れた物だろう。
自分の腰のホルダーにも入っている。
「動くなよ、ガブリエル将軍」
この声は、いつだかに聞いたことがあった。
「ルシフェルか?」
振り向かずに言った。
「ああ。・・・ミッドガルドに付くことにした。お前とは敵同士だ」
「そうだな。で、俺をどうする?」
「殺しはしない。まあ、しばらくはおいしくない食事を取ることになる」
「ホーリーでのディナーが恋しくなるな」
ガブリエルは自分の兵を見渡した。
首を動かせないので、目だけを動かした。
「・・・こいつらはどうする気だ?」
「本人次第だ」
「・・・わかった。さっさとやることをやれ」
「そうさせてもらうよ」
ガブリエルは、トラックに乗せられた。
もちろん、荷台の方だ。
10人くらい仲間の兵がいたが、他はどうなったのか想像が付く。
格子があり、会話は全て運転席に聞こえてしまうだろう。
下手なことを話せない。
「おい、ルシフェル。俺らをどこに連れるつもりだ?」
ガブリエルは格子に近づいて言った。
手も足も縛られなかったが、この状況はあまり気持ちのいいものではない。
「言っただろう?おいしくない食事を食べさせるだけだ」
「それで帰してくれたら、また来る気にもなるんだがな」
ルシフェルはただ笑っているだけだった。
デコボコ道に入ったのか、トラックがガタガタ言い始めた。
「あ、すまん。パンクしたかも」
ルシフェルの声が格子ごしに聞こえた。