一人が相手に殴りかかった。
・・・さっきから、二人共殴りあっている。
「ハアハア・・・ちっ、また明日来るからな!首洗って待ってろ!」
「ふん、いつでも来い・・・」
殴った方は狭い店から出て行った。
「ったく、そんなに煙草が吸いたいのか・・・」
殴られていた方は商人だ。
ディヴァインは、前までは煙草の類の喫煙は法律で禁じられていたが、
 今は皇帝も変わり、禁煙法は廃止された。
今まで隠れて吸っていた人々が煙草を喜んで買うので、
 この商人はディヴァイン中の煙草をかき集め、自分の所でだけ販売した。
需要があるのだから、多少価格を高くしても充分に黒字になる。
こんなことをすれば、愛煙者の怒りを買うのは目に見えている。
先程殴られたのも、そのためだ。
「ディヴァインには独禁法がないのだ。法に触れてはいまい」
この商人の理論だ。
現皇帝は、まだ17歳。
しかも幼少期から酒と女に溺れさせられ、ディヴァインの政治は
 宰相ワイズが握っていた。
ワイズは愛煙者ではなく、社会問題などに興味を持たない。
今ディヴァインがあるのは、4大将軍のおかげである。
4大将軍は、筆頭にミカエル、ガブリエル、ラファエル、ウリエルだ。
この内ミカエルは女性で、ラファエルは既に子持ち。
子持ちといっても、その子はもう23だが。
・・・商人を殴った街の人間は、とある集会所へ入っていった。
「改心する気はなさそうだ。俺らの力でやるしかない」
報告を受けて、このホーリー州の知事は肯いた。
「そうだな。夜になったら、暴れよう」
その後、静かに夜を待った・・・。
・・・そして、夜の闇は赤く染まっていった。
ホーリーの街に炎が広がる。
「逃がすな!」
街中を先程の商人が走っている。
それを追う街の愛煙者たち。
「やれやれ・・・勝手なことを・・・」
ガブリエルは手を顔に当てた。
「ラファエル、消火、やってくれるか?」
「ああ。じゃ、あいつらは任せるよ」
ラファエルはガブリエルに背を向け、歩き出した。
ガブリエルは持っていた狙撃銃を構えた。
ここはただの道だが、威嚇射撃には充分だ。
スコープを通して、走る商人と街の人の姿が見える。
ガブリエルは息を殺し、座って手ブレを押さえる。
テュン、と鋭くすぐに消える音がした。
スコープの中の人間は、行く道にぶつかった弾丸に驚いたようだ。
「取り押さえろ!」
すぐに立ち上がり、部下へ命令する。
5人の兵に押さえつけられている人間は、ガブリエルを見た。
「将軍・・・」
「勝手な行動をするな。ホーリーの街を焼き尽くす気か」
「いえ・・・滅相もない・・・」
「なら何もするな。こんなことをするなら、前もって軍に知らせろ。
 無意味な被害が出ないようにしたものを・・・」
「・・・すみません・・・。ですが、こいつが・・・」
「俺のせいにするのかよ?俺がいつ法に触れたんだ?」
「いちいち騒ぐな。これから独占禁止法でもつくれば、お前は犯罪者になる」
「そんな・・・」
「このまま続けていたらの話だがな」
「・・・4大将軍の一人が、国民を脅すんですかい?」
「善良な国民とは思いかねるな。後でゆっくり話しを聞こう」
ガブリエルは兵士へ、話し合いのできる場所へ連れるように命令した。
「・・・姫はまだ来ないのか・・・」
ガブリエルは呟いて、消火活動に参加した。
・・・その頃、ウリエルは自室にいた。
ホーリーからは遠く、エクメーネである。
愛銃の手入れをしていると、ドアが突然開いた。
「姫・・・」
「ウリエル・・・」
姫が言った。
姫は愛称で、名前はミカエル。4大将軍の筆頭に立っている。
姫がウリエルに近づくと、無線が鳴ったので、ウリエルは無線を取った。
「どうした?」
「ホーリーの騒ぎは治まりました。現在消火活動を行っています」
無線から声がした。
「そうか。なら大丈夫だろう。俺はエクメーネにいる」
「わかりました。では」
無線からは雑音しか聞こえなくなった・・・。
「ウリエル・・・本当にだめなの?」
「・・・・・・陛下はまだ17だ。奴にメチャクチャにされても、まだ人生は残っている。
 未来がある。俺はその手助けをしないと・・・」
「・・・私とは思想が違う・・・か」
2人共、しばらくは無言だった。
「俺は陛下を逃がしたら消える。姫も俺のような反逆者に関わると危ない」
ウリエルはミカエルを突き放すように言った。
ミカエルは、むしろそう言ってくれてよかった。
自分では決断できないかもしれなかった。
「・・・少しだけ、いい?」
「ああ。できることなら、ずっとの方がいいけどな」
ミカエルはウリエルに体を寄せた・・・。
・・・何10分かして、ミカエルは部屋から出た。
ミカエルの頭の中では、3つの考えが交互に浮かんでは消えた。
どうして私が国を建て直すの?
でも皆私を慕っている。国を建て直すことは義務なんだ。
そんなことのために・・・仲間だけ残して、家族を捨てるなんて・・・。
「・・・誰のためでもない。国のため。そのために、私が犠牲になればいい」
まるで呪文のように、ミカエルは繰り返し小声で言った・・・。
・・・ホーリーの火は鎮火し、ガブリエルとラファエルは、あの商人と、
 ホーリー州の知事と話していた。
「・・・どうする、知事さん?」
ラファエルが言った。
「これは我々の責任だ。罪を償うのも我々」
「では、この商人は?これも我々≠ノなるのか?」
ガブリエルが言った。
「それは本人次第です」
「おい、俺は法律の抜け穴を通ったんだ。犯罪者扱いは困る」
「・・・しょうがない。次は捕まらないようにしろ」
ガブリエルは、あきらめたようにため息と共に言った。
「じゃ、俺は帰る」
商人が帰り、知事もつられて帰った。
「ガブリエル、いいのか?」
「どうしようもないことだ。まあ、今後嫌がらせがあるだろうがな」
ガブリエルは微笑を浮かべていた。
「不気味だぞ、笑うなよ」
「人体実験マニアに言われたくない」
ガブリエルは言い返した。
どっちにしても、2人とも趣味はあまりよくなさそうだった・・・。
ミカエルはホーリーに着いた。
なるべく急ごうと高速に乗ったのだが、なにやら事故があったらしく、7時間もかかった。
「遅れてごめん」
ミカエルが来て、言った。
「姫・・・大丈夫なのか?」
ガブリエルは言った。
さっきの会議室である。
あのままミカエルを待っていたのだ。
「なんとかね。今夜にはやろう」
「迷う前に行動するのが一番です」
ラファエルはそう言って、ペットボトルのお茶を飲んだ。
ミカエルは仮眠を取るため、一旦眠りに就くことにした。
ホーリーの街には、いつものにぎやかさはなく、いやに静かだった。