ラファエルは実家に帰った。
いや、息子にも手伝ってもらうのだ。この革命を。
実家のあるサンタ・ルチア港は、晴々としていた。
実家のドアをノックする。
「おい、ルーフ。親父だ」
ドアの向こうから
「入れよ」
と声がした。
中に入ると、ルーフが椅子に座って足を組んでいた。
愛銃の手入れをしている。
「お前には他にやることがないのか?」
ラファエルが呆れたように言った。
「暇なんだ。団員の訓練も楽でな」
ルーフは元海賊で、国内でかなり名が知れていた。
義賊だったので、余計に有名になったのだろう。
今は海賊を止め、その頃に使っていた船を残してこの港を守っている。
ルーフの名を知ってルーフの下に集まった者たちで、
 こうしてサンタ・ルチア港を守る一団をつくったのだ。
ルーフの訓練の効果は、軍も認める程だ。
月に一度は軍から軍門をくぐるように言われてきた。
ルーフは面倒だからと断り続けているが。
「で、何の用だ?」
「これからエクメーネを攻めようと思う。手助けが必要だ」
「・・・ワイズはどうすんだ?」
宰相のことである。
「無論、殺す。姫が何か言わなければ」
「・・・ジパングの奴らは?」
「オフィエルが参加してくれる」
オフィエルはジパングを統治するディヴァインの将軍だ。
「なら俺が行くこともないだろ」
「お前の力があれば、それだけ被害も少なくなる」
ルーフは甘ったるいコーヒーを一口飲んだ。
「・・・暇つぶしにはなるか。行ってやるよ」
「よかった。これで軍も喜ぶ」
「俺は軍には入らないからな。窮屈そうで嫌だ」
誤解を招かないよう、言っておいた。
「親父、今軍はどこだ?」
「まだホーリーだ。勝ってはいるが、数が多くてな」
「じゃ俺がエクメーネまで行く。軍は軍で勝手に動いてろ」
「では帰るよ」
「ああ」
ラファエルが帰ると、ルーフは訓練中の団の所へ行った。
「おいお前ら!エクメーネに行くぞ!」
いきなり言われてもわからないが、それでも団員は賛成していた。
ルーフ絶対主義なのである。
団はほんの100人。
個人で従えるには相当な数だが、軍が相手では戦力はたかが知れている。
ルーフは歩きながら団員に事情を説明していた・・・。
・・・夜になったようだが、室内ではわからない。
ミカエルはホーリーにいた。
今はガブリエルの部隊がイモータル平原で戦っている。
しばらくはホーリーは安泰だ。
ミカエルは自室のベッドに潜り込んでいた。
ウリエルのこともあったが、兄のこともあった。
ミカエルの兄ルシフェルは、ディヴァインの将軍である。
だが、この革命には参加できなかった。
ルシフェルは妻シフに引っ張られ、新たな国家をつくろうとしている。
現在開発中の、ラグナレク大陸北部を領土とするらしい。
大陸中部、南部はミッドガルドの領土だ。
ディヴァインとミッドガルドは敵対関係にある。
ディヴァインの裏切り者を、ミッドガルドが受け入れるかどうか・・・。
新たな国家は、「女尊男卑」といった。
シフは、女性というだけで高い地位にいることが難しいのが変えたいのだ。
ミカエルが4大将軍の筆頭となったとき、2年は軽蔑の目で見られた。
そのミカエルの代わりに、シフが行動を起こしたようなものだ。
だから、兄との別れも、自分が引き起こした必然でしかない。
鍵をかけていなかったのか、ドアが開いた。
暗闇に慣れていて、外から漏れ出す光は眩し過ぎた。
その姿も、誰なのかわからなかった。
その姿はドアを閉め、ミカエルに近づいた。
不思議と恐怖は感じなかった。
呆然として、それでいてなぜか安心していた。
ミカエルは動かなかった。
寝ているふりをして、様子を見る。
「ミカエル・・・」
この声は、間違いなく、ルシフェルの声だ。
ミカエルは黙っていた。
「お前が国の建て直そうと頑張っているのに、兄は手伝いもしないなんてな。
 ・・・ごめんな。言い訳はしたくない。俺も・・・」
ルシフェルは言葉に詰まり、黙っていた。
「・・・俺はラグナレクからお前を助ける。絶対に」
ふと、気付けばルシフェルの唇がミカエルの頬に付いていた。
涙のこらえるのに必死だった。
ルシフェルは名残惜しそうに妹の頭をなでて、部屋から出た。
ドアの閉まる音で、ミカエルは声を殺して涙の流した・・・。
・・・ルーフ一団はエクメーネに向かっていた。
今は途中のイモータル平原で休憩を取っていた。
イモータル平原は広く、まだ南部だ。戦場へはまだまだ遠い。
ルーフは団から離れ、きれいな水の流れる川の近くにいた。
ここでも愛銃ワルサーPPKの手入れをしていた。
「・・・誰だ?」
ルーフは人の気配を感じた。
月光に照らされて出てきたのは、見たことのない女性だった。
「何の用だ?」
「こんなところで何してるの?」
その女性は言った。
「それは俺のセリフだ。まずは俺の質問に答えろ」
ルーフは敵意たっぷりに言った。
「私はちょっと用があっただけ。あなたは?」
ルーフの敵意に対しても、ていねいな口調で言ったので、ルーフは驚いた。
「俺は戦場に向かうんだ」
「隊長か何か?」
「いや、一般市民だな。お前も早く用を済ませるといい。戦場はまだ遠いが」
「心配してくれるのは感謝するけど、大丈夫だから」
「そうか。じゃ、俺ももうそろそろ寝ないと」
ルーフは立ち上がり、団へ戻ろうとした。
「そういや、名前聞いてなかったな。名前は?」
「パーシバル。あなたは?」
「俺はルーフ。また会ったらよろしく」
ルーフは団へ戻り、数分で深い眠りに就いた。
「ルーフか・・・」
パーシバルは微笑を浮かべた。