壮大なファンファーレだった。
ホーリーではミカエルの即位式が行われていた。
エクメーネはまだ戦争の傷が残っているので、華やかな即位式には合わないので、
ホーリーになったのだ。
ミカエルは音楽の中、階段を歩いていた。
ちょうどミカエルが階段を登り終えると、音楽も終わった。
ミカエルの歩行速度まで綿密に計算しての結果だ。
臨時に設置された玉座の前には、 ガブリエルが立っていた。
両手で王冠を大事そうに抱えている。
ミカエルの足音だけが響いた。
ミカエルがひざまずくと、ガブリエルは王冠をミカエルの頭に置いた。
大きな王冠は、小柄なミカエルとはつり合っていなかった。
ミカエルが立ち上がると、後ろから歓声と拍手が聞こえた。
見れば、ガブリエルも微笑みながら拍手している。
ミカエルも、いつの間にか笑っていた。
・・・ルーフは、ホーリーの郊外にいた。
「ここまで音が聞こえるとはな。姫も慕われてるんだな」
木に寄りかかりながら、下を向いて呟いた。
「それで、何の用だ?」
ルーフは顔を上げて言った。
姿を現したのは、パーシバルだった。
短い金髪が輝いている。
「ちょっと寄っただけ」
その言葉はあらかじめ用意されていたように聞こえた。
「そうか?どっかの軍人かなんかじゃないのか?」
パーシバルは、自分の格好を見て、自分がバカらしく思えた。
腰のホルダーには拳銃、胸にはナイフがある。
少しはラフな格好にしたつもりだったが、とても一般人の格好ではない。
「・・・そう。私は軍人。でも一人で戦えないことぐらい知ってる」
「そりゃな。・・・何の用でここまで来た?」
「4大将軍の誰かを撃とうかと思ったけど、あなたに見付かったから無理ね」
「お前はミッドガルドの人間か?」
「ここの人間。ディヴァイン人よ」
ルーフは少し考えるような素振りをした。
「まあいいや。帰れよ。俺に用があるなら別だけど」
「・・・じゃ、またあなたに会うのを楽しみにしてるわ」
「じゃあな」
パーシバルは警戒もせずに悠々と後ろを向き、歩いていった。
影が遠ざかっていく。
突然、ルーフの右手が痛み出した。
「・・・こんなんじゃ、戦争はできないか。早く治れよな・・・」
ルーフは地面に座った。
・・・そして、数日が過ぎた。
ミカエルは仕事に追われていた。
ワイズの代わりの宰相を誰にするかなど、時間のかかる仕事も多くあった。
今日は比較的楽な方で、今年の予算をどうするかという書類に目を通すだけだ。
他にも仕事はあるが・・・。
「ミカエル様、13番はどうしますか?」
秘書的な役割の人間である。
「13・・・」
ミカエルは13という数字に、懐かしむような悲しむような表情をした。
だが、それも一瞬のことで、すぐに
「私に様はつけなくていいって言ったのに」
と言った。
「すみません」
「・・・ちょっと休ませて」
「はい。では、1時間後、また来ます」
「ありがとう」
ミカエルは目をつぶった。
ドアの閉まる音がしたが、もう聞こえなかった。
「13・・・・・・私の名前≠セ・・・」
ミカエルは目がふるえるような感覚を覚えた。
12年前、ディヴァインは荒れていた。
いや、荒れていたのはセイクレッド地方だけで、都の方は相変わらず華やかだった。
セイクレッド地方で最も有力なかまくら族が分裂したことで、
 いくつもの部族ができてしまった。
寒い豪雪地方。生きるために人を殺めるのは当たり前だった。
むしろ、それができないのは人間でないと言われる程だ。
生きたくて強い者だけが生き、弱者と死にたがりは戦場で盾となった。
都の人間も、面倒なことに関わりたくないという表情を隠しもせずに傍観していた。
そんなことを気にする余裕もなかった。
13番・・・ミカエルは少年兵だった。
少年と言っても、少女も含まれる。
7歳のときには少年兵となり、その前も簡単な食事の準備くらいはやっていた。
8歳になると、実際に人を何人も殺してきた。
大人だけではなく、敵の少年兵もだ。
そして、9歳には最前線で戦っていた。
今までの活躍を褒めているのだと、「隊長」は言っていた。
13番≠ヘ大人並みの仕事もこなした。
2度族長暗殺もやった。
13番によって潰れたといってもいい部族もあった。
・・・最前線の陣は妙な緊張が常にあった。
「隊長」も、大人とはいえ、死と隣り合わせなのは笑えない。
「13番!」
「隊長」が言った。
「はい!」
声が子供だが、ここは子供にいるべき場所ではない。
ここでは、大人も子供も「兵士」としてしか見られない。
人を殺める道具でしかない。もう人ではないのだ。
14番、15番と、続いて呼ばれていく。
18番が呼ばれたが、「隊長」は次に19番を呼ばなかった。
「以上、呼ばれた者は豊城へ向かう。残りはここで前線を維持せよ!」
「隊長」は言った。
「隊長」を含めた19人で、かまくら族の本家を叩くのだ。
本拠地は豊城。この吹雪の中を奇襲する。
失敗の可能性は高いし、もし成功しても、味方の援護は期待できない。
つまり、死は確実ということだ。
「隊長」までもが涙を流しそうな程だった。
13番を・・・ミカエルを虐げていた大人の兵士も。
だがミカエルは、いや13番は何も感じなかった。
すでに大人の思惑通りの人でない「兵士」となってしまったのだろうか。
「もう行くぞ」
「隊長」は言って、歩き出した。
13番を含む18人がついていく。
吹雪は、13番たちを退きかえさせようとしている。
何のためでもないが、その吹雪の善意すら無視して進まなくてはならない。
今までは生きるために戦ってきたが、今度は死ぬために戦うのだ。
のこのこ戻るわけにはいかない。
豊城が見えてきた。
「隊長」はなにやら取り出した。
「これで城壁を壊す。壊れたらすぐ中に入れ」
「隊長」が持っているのは、ロケットランチャーだ。
都から盗んできたものだ。
対戦車用のロケットランチャーだから、城壁を破壊するのはなんとかなりそうだ。
爆音と共に、城壁の崩れる音がした。
砲口からは煙が出ている。
「行け!」
豊城内への侵入は簡単だった。
奇襲は予想していなかったようで、あっさりと敵は倒れていく。
13番は無謀にも走りながら、アサルトライフルを撃ち続けた。
敵もその姿に恐れをなしたのか、怯えている。
誰でもよかった。とにかく、殺して自分が生きたかった。
敵の族長もあわてて逃げようとしている。
「隊長」は弾丸のなくなった銃を投げ捨て、腰の拳銃を素早く抜いた。
族長目掛けて何発か撃ち、やがて族長は倒れた。
「13番!我々の勝利だ!もういい」
13番は、小さな体に似合わないアサルトライフルを落とした。
恐怖で今頃震え上がる。
「隊長」は13番の頭をなでた。
「お前のおかげだ、13番。いや、ミカエル」
「隊長」はやさしい声でミカエル≠ノ言った。
今よりもっと子供の頃に聞いた声だった。
もう10年も前のようだったが、自分はまだ9歳であることを思い出す。
「ありがとうございます、隊長」
震える声でミカエルは言った。
その後、ミカエルの属する部族はセイクレッド地方を制した。
2年後に都からの軍に滅ぼされたらしい。
ミカエルはその前に都の方へ行っていた。
あまりにも英雄扱いされていて、再び虐げられることもあったからだ。
・・・もう12年も前のことだ。
12年前は英雄、今は一国の王。
今でこそ王制だが、ミカエルの次は大統領だろう。
もう一時間程経っている。
「さて、やろ」
ミカエルはつぶっていた目をこすりながら言った。